平田クリニック かわら版 No.10 (2006年3月) 第10回 メタボリックシンドローム(代謝症候群)について メタボリックシンドロームとは、動脈硬化性疾患の高リスク状態を表す言葉です。肥満、糖尿病、高血圧、高脂血症は、お互いに合併しやすく、しかも、これらの合併する個数が多いほど動脈硬化性疾患(脳血管疾患や虚血性心疾患)の危険が高まります。メタボリックシンドロームの診断基準は、WHOでは1999年に、また、米国では2001年にそれぞれ診断基準が提唱されていますが、日本でも2005年に日本人の体形に合わせた診断基準が発表されました。今回はこの話題をご提供します。
●日本での頻度(札幌医科大学の調査) 北海道の住民(男性)808人を調査した結果、40歳以上の男性では25.4%と、アメリカとほぼ同等の有病率であることがわかりました。 ●メタボリックシンドロームの予後(日本内科学会誌93:642, 2004年) 上記の札幌医大の8年間の追跡調査(1992年から2000年まで)の結果、 心血管の疾患による事故(心疾患と脳卒中の発症と死亡)が非メタボリックシンドロームの人に比べて2.1倍多いことがわかりました。(下の図)
フィンランドの報告では(JAMA 288:2709, 2002)、1209人の男性を約11年追跡調査した結果、 →メタボリックシンドローム群:11年間の生存率は79% →非メタボリックシンドローム群:11年間の生存率は90% で、虚血性心疾患による死亡は2.4−3.4倍、全死亡では1.5―2.1倍に増加しました。 以上のことから、メタボリックシンドロームの状態から抜け出すことが非常に重要であることがわかります。 ●メタボリックシンドロームへの対策 メタボリックシンドロームから脱却し、動脈硬化性疾患を予防するためには、まず肥満の改善が重要です。 肥満が改善すると、ウエストが細くなり、中性脂肪が低下し、HDLコレステロールが上昇し、血圧が下がり、血糖値も低下します。すなわち、メタボリックシンドロームの全ての数値が改善します。 肥満の改善には運動療法、食事療法を同時に進めるのが効果的です。以下にその実践方法をご説明します。 (1) 肥満の改善 目標体重(正常の上限)=身長(m)×身長(m) × 25 → これを下回れば肥満は解消です! 理想体重=身長(m)×身長(m) × 22 例)身長160cmの場合 → 肥満の目安:1.6 X 1.6 X 25=64kg 理想体重:1.6 X 1.6 X 22=56.3kg
BMIは22が理想値ですが、正常上限は25未満です。このため、肥満の目安を求める上の計算式(1行目)では最後に25を掛けています。
(2) 運動療法(ニコニコペースで) 運動療法の強さは、ニコニコペースで十分な効果があります。ニコニコペースとは会話をしながら実行できる程度の運動です。これを数値的に表すと、下の自覚的運動強度の表で「楽である」または「非常に楽である」のランクに相当します。運動中の脈拍数で表すと、50歳代以下では120/分以下、60歳以上は100/分以下となるようにします。すなわち、汗がでるか出ないか程度の運動で十分であり、無理に強い運動を行う必要はありません。 ●1日30分程度、週3日以上(できれば毎日)、上記の強さの運動で行います。 ●ウォーキング、ジョギング、水泳、自転車などの全身運動が適当です。 ●準備運動(5分程度)を行います。(ケガの防止のためにストレッチング) ●運動は1度に1日分を全て行う必要はなく、細切れでもよいのですが、1回当たり10分以上持続して行うことが必要です。 10分以上行う理由は、筋肉で脂肪を燃やすためには最低この時間が必要だからです。 ●運動後は整理体操(5分程度)を行います。
(3) 食事療法 肥満の解消は運動療法だけでは困難で、食事療法(カロリー制限)が必要です。ただし極端なカロリー制限は逆効果ですので、仕事の強さにより、下記のように適正なエネルギー量を決め、栄養士さんによる指導を受けます。
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