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平田クリニック かわら版 No.32 (2013年09月)

第32回 関節リウマチに対する生物学的製剤による治療(当院での経験をふまえて)

 現在、関節リウマチの治療には7種類の生物学的製剤が使用可能となっています。それぞれの薬剤に特徴があり、効果はどの薬剤もほぼ同等です。患者さんのライフスタイルに合わせて、外来での点滴か、自宅での自己注射を選択することができます。
 レミケード(抗TNF)は点滴のみですが、アクテムラ(抗IL-6)、オレンシア(T細胞活性化抑制薬)は、最近、点滴だけでなく、自宅での皮下注射も可能になりました。自宅での皮下注射で使用するのはエンブレル(週1回以下)、ヒュミラ(2週間に1回)、シムジア(2から4週間に1回)の3種類で、いずれも抗TNF療法です。シンポニー(抗TNF)は皮下注射ですが、4週間に1回外来で注射します。皮下注射の利点は、点滴より時間の節約になることです。点滴製剤の利点は、自己注射が苦手な患者さんにお勧めで、医療機関で実施するため、注射の失敗のリスクが少なく、効果が確実なことです。

1.エンブレル(抗TNF)は効果が十分であれば、注射の量を減らすことが可能です(医療費の節約)

エンブレルは通常、1週間に1回、50mgを皮下注射します。当初50mgで治療開始し、効果が十分に得られた場合(臨床的寛解を達成)は、半分に減量してもその効果を継続できることがわかっています(PRESERVE試験 欧州リウマチ学会2011年)。当院でも、医療費の節約のため、十分な効果が得られた患者さんには、注射量を減らすことを心がけています。

現在当院でエンブレルを使用していらっしゃる患者さんは31名ですが、現在週50mg注射の患者さんは14名、週50mg未満注射の患者さんは17名です。この17名のうち、最初50mg注射であったのが、良好な経過のため減量できた患者さんは11名、最初から50mg未満を使用していた患者さんは6名でした。

週50mg未満の内訳は、
@ 25mgを週1回注射・・・9名
A 25mgを10日に1回注射・・・7名
B 25mgを14日に1回注射・・・1名
となっています。@の場合ですと、注射の費用は半分になりますし、Aの場合は6割引き(約40%)になります。医療経済的に大きな利点があるといえます。

下の図は、当院でのエンブレル用量別の効果を7年間にわたってみたものです。週50mg未満群の患者さんは、週50mg群の患者さんと比較して、治療開始後3、6、12、24、36、48か月後でDAS28(疾患活動性の指標)が有意に良いことが示されています。また、臨床的寛解(SDAIが3.3以下)を達成した割合は約71%と、非常に素晴らしい結果でした。ここで注意すべきは、毎週エンブレル50mgを注射している患者さんの治療効果が悪いのではありません。リウマチの病勢が強いため、エンブレルを減量できないのです。週50mgを注射している患者さんの場合も治療効果は良好で、ご満足頂いているからこそ、治療を継続できています。
 週50mg群と週50mg未満群の患者さんの背景を比較すると、50mg群では平均罹病期間10.1年、初めての生物学的製剤使用(ファーストバイオ)であった比率が71%であったのに対し、50mg未満群では平均罹病期間7.9年、ファーストバイオであった比率が82%でした。一般的に、罹病期間が短いほど、また、ファーストバイオほど治療効果が高いとされており、50mg未満群の患者さんはこの両条件を満たす比率が高いため有効性が高いと考えられます。

image32_1

上の図で、系列1はペアの棒グラフのうち左側、系列2は右側です。
縦軸はDAS28(CRP)の数値(各群の平均値)、横軸は時間(月数)です。
棒グラフの中の数字は、含まれる人数を示しています。現在進行中の観察のため、時間経過とともに人数が少なくなっています。




2.アクテムラ(抗IL-6)は、最初の生物学的製剤として使用するとより良い効果が得られます
アクテムラは、発売当初は、他の生物学的製剤が効果不十分な場合に使用することが多かったのですが、発症してなるべく早期に、ファーストバイオとして使用すると、より効果が高いことがわかってきました。今年の日本リウマチ学会で、慶応大学の竹内教授は、KEIOコホートの結果を引用し、MTXを併用したアクテムラの治療について報告しました。その結果は、ファーストバイオとして使用した場合の臨床的寛解(DAS28)は74%、非ファーストバイオとして使用した場合の臨床的寛解は59%で、ファーストバイオとして使用することの有用性を明らかにしています。
 順天堂大学附属越谷病院の小林教授が中心となり、かねこ内科リウマチ科クリニック、守田内科医院、そして当院も調査に協力したSAQRA研究では、MTXだけでは十分な効果が得られず、それまで生物学的製剤を使用したことがない患者さんを対象に、アクテムラを4週間に1回の点滴で、1年間使用しました。得られた治療効果は本年の日本リウマチ学会で金子先生により報告されました(詳しくは前回の「かわら版」をご覧ください)。
 下の図は、当院でSAQRA研究への参加を承諾頂いた4名の患者さん(上段)と、アクテムラを2剤目あるいは3剤目として現在当院で使用させて頂いている患者さん13名(下段)の背景を示しています。SAQRA研究参加の4名の患者さんは、それ以外の13名の患者さんと比較して、平均罹病期間が短く、平均年齢が低く、レントゲンでの進行程度が軽症である傾向にありました。

image32_2
当院におけるアクテムラのファーストバイオとしての効果を下の図にお示しします。治療開始後3か月、6か月、12か月で、非ファーストバイオの患者さん群と比較して、有意にDAS28スコアが良好(治療効果が高い)でした。また、現時点での臨床的寛解(SDAI寛解)は、ファーストバイオでは75%、非ファーストバイオでは15%で、ファーストバイオとしての使用の方が寛解率が良好な傾向にありました。
image32_3

上の図で、系列1はペアの棒グラフのうち左側、系列2は右側です。
縦軸はDAS28(CRP)の数値(各群の平均値)、横軸は時間(月数)です。
棒グラフの中の数字は、含まれる人数を示しています。現在進行中の観察のため、時間経過とともに人数が少なくなっています。

医療費の節約は、アクテムラの場合でも可能です。通常は4週間に1回の点滴ですが、臨床的寛解が得られたら、点滴の間隔を徐々に延長すると、年間を通した医療費が節約できます。当院でも、点滴の間隔が5週ないしは最長で6週の患者さんが数名いらっしゃいますが、効果は4週間に1回のときと同じ状態で推移しています。





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