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平田クリニック かわら版 No.4 (2004年4月)

第4回 健康のためにウォーキングを!

● ほとんど運動しない人とする人での6年間の死亡率の比較・・・運動で死亡率が減少します

下の図は70歳以上の高齢者456人を6年間追跡調査した結果です。


殆ど運動しない人の死亡率を1としたときの死亡率を表しています。
週4時間程度歩行する人は男女計で死亡率が運動しない人の0.41倍になる、つまり死亡率が59%も減少することがわかります。

男女計
殆ど運動しない(週4時間以下の歩行)
週4時間程度の歩行

0.41

0.45

0.28

毎日1時間以上の歩行

0.14

0.13

0.17

(J Am Geriatr Soc, 2000)
⇒ 毎日でなくても、週4時間程度の運動(有酸素運動)が、生命予後を改善することがわかります。


免疫機能と運動

有酸素運動(ウォーキングなど)は、ナチュラルキラー(NK)細胞の活性化を高め、がんや感染症への抵抗力をつけます。



● 中枢神経と運動

有酸素運動(6ヶ月以上続けると)をする人は、ストレッチ運動だけの人と比べて
@高齢者での認知機能が改善する。
A抑うつ症状が少ないと報告されています。

● ニコニコペースでウォーキングしましょう!!

運動のやり方は、生活習慣病である高血圧、糖尿病、高脂血症とも共通です。
ニコニコペースとは、会話をしながら実行できる程度の運動です。 (アメリカスポーツ医学会 1998年)

週3〜5日、中等度の強さ(ニコニコペース)の運動で行います。(適切な心拍数の計算方法は下記)

⇒ ウォーキング、ジョギング、水泳、自転車などの全身運動が適当です。

食後に、1日30分以上行います。運動は1度に1日分を全て行う必要はなく、細切れでもよいのです(たとえば、毎食後10分以上)

⇒ 運動前(運動中)には水分を補給します。(季節にもよりますが、200ml程度)

⇒ 準備運動(5分程度)、整理体操(5分程度)を行います。

⇒ 1日の合計の歩数が10,000歩以上(距離として6km程度、350kCal相当)を目指します。

⇒ 0.5kg程度のダンベルを持ち、腕を振りながら歩くのも効果的です。

⇒ 「運動」している時だけが「運動」ではありません。日常生活のなかでなるべくまめに動くことが大切です(家事、庭仕事など)。

⇒ 血圧が高い場合(180/100mmHg以上)は運動は危険です。適切な薬物治療で降圧してから行います。
降圧薬を服用中の場合、薬を服用後に運動します


⇒ 糖尿病の場合、運動は続けるほど血糖が下がる効果が出ますので、なるべく長期間続けることが重要です。

※適切な心拍数:138−(年齢/2)・・・最大酸素摂取量の約50%に相当(但し、体力が低い場合は無理せず、これ以下の心拍数でOKです)


● 運動療法の意義


食後に運動することで、筋肉に糖が取り込まれ、血糖が低下します。

軽い運動はお腹の内臓脂肪を分解する良い働きがあります。

運動すると、約4週間で収縮期血圧(上の血圧)が約10〜20mmHg低下し、拡張期血圧は約5〜10mmHg低下します。
しかし、運動を中止すると1ヶ月後には血圧は元に戻るので、継続することが重要。

1週間に150分歩き、体重を7%減らし、適切なカロリー制限を行うと、糖尿病の60%は予防可能である、というデータもあります。

体重を1kg減量するには・・・7000kCal必要(1日10000歩で3週間もかかる) ・・・つまり、減量するには運動だけでは困難で、
食事制限(ダイエット)が必要です。

それでは、代表的な生活習慣病と運動の関係についてご説明します。


1. 脳梗塞予防のための心得 最近話題になっている病気ですね・・・〜

脳梗塞の再発予防のガイドライン (アメリカ心臓病協会、Stroke, 1999)

脳梗塞にならないためにどうすればよいか、改善の目標のところに書かれています。
危険因子
改善の目標(これを達成すればOK!)
高血圧 140/90mmHg未満
喫煙 禁煙する
糖尿病 空腹時血糖126mg/dl未満
血液中の脂質 総コレステロール      200mg/dl未満
中性脂肪         200mg/dl未満
LDLコレステロール(悪玉)  100mg/dl未満
HDLコレステロール(善玉)   35mg/dl以上
アルコール エタノール換算で1日20-30g(女性では10-20g)程度(日本酒1合、ビール350ml程度)
運動 少なくとも週3回の1日30〜60分の有酸素運動 あるいは1日1万歩
(早歩き、ジョギング、サイクリング)
体重 標準体重※の120%以下にする
※標準体重:計算方法は、糖尿病のところに記載しています



2. 高血圧と運動


高血圧ガイドラインから

高血圧と正常血圧は、下の表のように定義されています。
カテゴリ
収縮期血圧    拡張期血圧
正常
120未満  かつ  80未満
高血圧
140以上  または 90以上


降圧目標:140/90 mmHg
糖尿病または腎臓病がある場合:130/80 mmHg未満が目標


家庭での血圧測定の方法

血圧計があるご家庭も多いと思います。家庭血圧は以下の方法で測定することが勧められています。

血圧計は上腕で測定するものがお勧めです

⇒ 家庭血圧の正常上限値:130/80mmHg以下です (135/85mmHgを超えるようなら薬物療法を検討します)

朝と夜、それぞれ1回ずつの測定で十分。
    ・朝は起床後、排尿後、座って1−2分落ち着いてから測定(薬を飲む前)。
    ・夜は就眠直前に同様の方法で。


治療の流れ

1)生活習慣の改善をおこないます(3から6ヶ月間)

@食事療法


減塩・・・塩分は1日7g以下

ミネラル(カリウム、カルシウム、マグネシウム)や食物繊維をしっかりとる (新鮮な生野菜、果物、海藻類など)

肥満がある場合は、糖尿病に準じたカロリー制限をおこないます。

アルコールについて
エタノール換算で1日20-30g(女性では10-20g)程度(日本酒1合、ビール350ml程度)が心筋梗塞の死亡率が最も低いとされています。

A禁煙・・・生活習慣病全てに重要です。

2)生活習慣改善を試みても降圧目標を達成できない場合は薬物治療を開始します。

高血圧と運動について

運動中の血圧の変化は、
 ・薬を服用していない人 30〜40mmHg上昇します
 ・薬を服用している人 10〜20mmHg上昇します
いずれも安全な範囲の上昇です

運動後の血圧低下について

運動後は血圧が下がるので、下がり過ぎないようにしっかり整理体操をしましょう。
そのメカニズムは・・・
 ・運動で交感神経の緊張がほぐれる ⇒血圧が下がる
 ・運動で血管が拡張する(体が火照る) ⇒血圧が下がる



3. 糖尿病と運動


糖尿病は増加していて、大きな社会問題になっています。

1997年の国民栄養調査(厚生労働省)
糖尿病 690万人
糖尿病予備群 680万人
合計 1370万人


● 糖尿病の恐ろしさ


コントロールが不良の場合、晩期に腎障害、神経障害、壊疽、失明などが起きやすい。
狭心症や心筋梗塞のリスクが女性で4倍、男性で2倍上昇します。脳梗塞のリスクも上昇します。


● 糖尿病の診断

正常
糖尿病
空腹時

75g糖負荷 2時間値
110未満

140未満
126以上

200以上
判定
両者をみたせば正常
どちらか満たせば糖尿病
正常でも糖尿病でもないものは境界型

1回の血糖測定と、ヘモグロビンA1cが6.5%以上あれば糖尿病と診断できます
境界型の場合・・・狭心症、心筋梗塞、脳卒中の発症頻度は糖尿病とほぼ同じなので、糖尿病と同様な食事、栄養療法が必要です。



● 糖尿病を予防するために


適正な体重の達成(BMI=22)が必要です。肥満がある場合は7%以上の減量が必要です。
BMI=   体重(kg)÷{身長(m)}2 (BMIの正常範囲は18.5〜25)

標準体重={身長(m)}2 X 22 
    例えば身長160cmの場合、標準体重は 1.6 X 1.6 X 22=56.3kg

適正なエネルギー量は、おおよそ以下のようになっています。
   ・デスクワークが多い人、通常の主婦 標準体重 X 25 KCal
   ・立ち仕事の人、小さな子供がいる主婦 標準体重 X 30 KCal
   ・肉体労働が中心の人 標準体重 X 30〜40 KCal



. 高脂血症と運動

● 日本での疫学調査では

血清コレステロールが200mg/dlを超えると狭心症・心筋梗塞が増加します。

中性脂肪150mg/dl以上、HDLコレステロール40mg/dl未満でも上記が増加します。

● 運動の意義

有酸素運動によって

中性脂肪が低下します

LDLコレステロール(悪玉)が低下します

HDLコレステロール(善玉)が増加します

体脂肪率が減少します

運動によるコレステロールの改善には3ヶ月かかるため、継続的な運動習慣が重要です。


上の表は、トレーニング前後で血液中の中性脂肪(トリグリセリド)と総コレステロールが低下することを示しています。


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