平田クリニック かわら版 No.5 (2004年8月) 第5回 気管支喘息 最新の治療 ● 気管支喘息は気管支が発作的に狭くなって呼吸ができなくなる病気です。 長期に気管支の炎症が続くとリモデリング(気管支が厚く,硬くなる)を生じて薬が効きにくくなりますので、発病したら早くから治療を開始することが大切です。気管支が狭くなる原因として @ 気管支の筋肉を収縮させ、気管支の毛細血管から血漿を漏出させて粘膜をむくませる物質 ・・・ヒスタミン、ロイコトリエン、プロスタグランジンD2、トロンボキサンA2、血小板活性化因子(PAF)など。これらにより抗原(アレルギーの原因物質)に暴露した後15〜30分に即時型の喘息発作がおこります。 A 気管支の分泌腺を刺激し、喀痰を過剰にさせる物質 ・ ・・PAF、インターロイキン4(IL-4)、IL-5、顆粒球コロニー刺激因子(GM-CSF)など。これらにより好酸球やリンパ球(炎症細胞と呼びます)が気管支粘膜に入り込むことにより、約3時間後から遅発型の喘息発作がおこります。これらの炎症細胞は気管支を傷害するロイコトリエン、活性酸素、塩基性顆粒蛋白などを放出して気管支の炎症、収縮、喀痰の増加を来たします。このあと炎症細胞は数日にわたり気管支に浸潤し、後遅発型喘息反応を来たし、喘息発作の状態が持続します。
■頻度 @発生頻度:日本の小児喘息の有症率は4.0%,以前の罹患も含めれば6.4%であり,一般に都市部に多いです.小児の有症率は30年前に比べると5〜10倍と増加しています。しかし、小児の場合12〜15歳くらいで約60〜80%の人が自然治癒します。成人では20代の2.8%から40代の1.8%と有症率は高齢になるほど減少し,全体の累積有症率は3.0%です. A死亡率:日本では1年に喘息で5000から6000人が亡くなっており,あなどれない病気です.小児および成人とも軽症,中等度症の死亡が増加して,急激な経過で死亡することが問題になっています. ■検査所見について @肺機能検査 ・スパイロメトリー(当クリニックでも施行しています):気道閉塞所見を確かめ,気管支拡張薬やステロイド剤による20%以上の改善を確認できれば喘息と診断できます. Aアレルギー検査:喘息がアレルギー性であるかどうか,また特異的な抗原があるかどうかを調べるためには有効です.抗原の特定には血清中のIgE抗体の測定や皮膚テスト(プリックテスト)を行います.特定の抗原が見つかれば抗原を可能なかぎり避ける,あるいは減感作療法などの免疫療法を行います.当クリニックではハウスダスト,スギ,ブタクサの減感作療法が可能です。詳しくは第3回かわら版をご覧ください。ハウスダストが原因の喘息の場合、減感作療法の有効率は60-80%と報告されています。 ■気管支喘息の治療 気管支喘息は慢性の炎症性の病気で、時々発作を起こして悪化します。したがって、治療薬は長期管理薬(病気の長期管理のために継続的に使用する薬剤)と発作治療薬(喘息発作の治療のために発作時に使用する薬剤)に分けられます。 喘息は気管支局所が狭くなる炎症性の病気ですので、直接気道へ薬剤を吸入させるほうが少量で効果を発現し、しかも全身への副作用が少ないのです。現在は吸入ステロイド薬、吸入長時間作用性β刺激薬が治療の主役になっていて、その高い有効性から、世界標準の治療となっています。気管支の炎症をとるのに最も有効なのはステロイド薬だからです。しかも、小児や妊婦を含めた安全性も証明済みです。小児でも、吸入ステロイドは適切な使用量を守れば安全に使用でき、身長の伸びには影響がないことが大規模な研究から分かっています。「ステロイド」と聞いただけで、恐ろしい、副作用が怖い、と考える方がいらっしゃいますが、全身の副作用(太る、高血圧になる、ニキビができる、骨粗鬆症になる、など)が見られるのは、大量のステロイド薬を内服し続けたときです。 内服で使用される抗喘息薬にはテオフィリン薬、β刺激薬、抗アレルギー薬などがあり、重症度に応じて吸入薬に併用されます。また、β刺激薬には貼布薬(商品名ホクナリンテープなど)があり、その使いやすさから小児喘息や、風邪により一時的に喘息症状が出現するときによく使用されます。 ■主な薬剤の説明 @副腎皮質ステロイド薬(商品名 フルタイド、パルミコート、キュバールなど) 現在の喘息治療における最も効果的な抗炎症薬で、軽症持続型(ステップ2)以上では長期管理薬の第1選択薬です。喘息が発症したら早期に吸入ステロイド薬を開始することが気管支のリモデリング(気管支壁が厚くなり、重症化、遷延化すること)を抑制します。発作があるときも無いときも決められた回数を毎日吸入することが重要です。症状が改善してきたら、医師の指示で少しずつ減量してゆきます。吸入ステロイドの副作用としては、声のかすれ、咽頭のカンジダ症(カビ)がありますが、吸入後に必ずうがいをすることで多くは予防可能です。 吸入ステロイド薬には、@ドライパウダー(乾燥粉末)を自分の力で吸入するタイプのもの(図1)と、Aガス状の薬剤を吸入補助具を用いて吸入するタイプ(図2)の2種類があります。@は主に自分で吸入できる成人、小学生以上の小児に使用されます。Aは主に自分で吸入できない幼児が使用します。 当クリニックでも治療ガイドラインに沿ってこれらの吸入薬剤の使用法を患者さんにご説明しています。
Aテオフィリン徐放薬(商品名 テオドール、テオロングなど) 古くから使用されている薬剤です。最近では抗炎症効果も報告されており、T細胞や好酸球の気管支への浸潤を抑制したり、T細胞のサイトカイン産生を抑制することなどが知られています。副作用としては悪心嘔吐、震え、不整脈などがありますが、使用量を十分注意し、血中濃度を測定することで副作用を防止します。 Bβ刺激薬(交感神経刺激薬)(商品名 セレベント、ホクナリンテープ、サルタノールインヘラーなど) 気管支の平滑筋を拡張させます。吸入長時間作用性β刺激薬(セレベントなど)は長期管理薬として使用されています。吸入ステロイドとの併用が非常に有効で、ステロイドの使用量を減らすことができます。副作用は震え、動悸、低カリウム血症などで、経口>貼布>吸入の順に多く見られ、吸入が最も安全ですが、小児で吸入が困難な場合はテープ薬(ホクナリンテープなど)が有用です。発作止めとして用いるサルタノールインヘラーなどの短時間作用性吸入薬は、速効性があり、内服薬より副作用が少なく小児でも安全に用いることができます。吸入補助器具を使用すると(図3)、楽に吸入できます。
C抗アレルギー薬(商品名 インタール吸入液、アゼプチン、アレジオン、シングレア、オノンなど) インタール吸入液(グロモクリク酸)は電動ネブライザーを患者さんが購入していただく必要がありますが、肥満細胞からの炎症メディエーター放出を抑制し、副作用が少なく、小児から成人まで長期管理薬として使用できます。アゼプチンやアレジオンなどの抗アレルギー薬はスギ花粉症などでも用いられます。シングレア、オノンなどの抗ロイコトリエン薬は内服早期(1から3時間)から呼吸機能が改善し、抗炎症作用もあります。運動誘発喘息の発作予防や、中から高用量のステロイド吸入薬を使用しても喘息がコントロールできない場合に併用する薬として有用で、ステロイドを減量する効果も認められます。 以下に、厚生労働省免疫アレルギー研究班の 喘息予防・管理ガイドライン2003より引用し、喘息の重症度及び治療方法を述べます。 ■喘息の重症度(厚生労働省免疫アレルギー研究班の 喘息予防・管理ガイドライン2003)
■喘息の治療指針(成人)(前のページの喘息予防・管理ガイドライン2003を一部改変)
■喘息の治療指針(小児):喘息管理の国際指針(GINA 2002)から引用、一部改変
発作時には、短時間作用性吸入β刺激薬を頓用しますが、1時間以内に3回使用しても症状が改善しない場合は救急外来を受診します。短時間作用性吸入β刺激薬の頓用が1日3〜4回以上であれば治療をステップアップ(強化)します。 ◆ 治療のステップアップ:現行の治療でコントロールできないときは、次のステップ(強力な治療)に進みます。 ◆ 治療のステップダウン:治療の目標が達成されたなら、少なくとも3ヶ月の安定を確認してから治療内容を減らしても良い。以降もコントロール維持に必要な治療は続けます。 ■ ピークフローメーター(PEF)による喘息の自己管理 一気に吐き出す空気の量を測る簡単な測定機器で,当クリニックでは患者さんにお配りしていますので、お問い合わせください。
|
|