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平田クリニック かわら版 No.7 (2005年1月)


第7回 高血圧について


1.前置き:高血圧とメタボリックシンドローム(代謝症候群)の関係とは?
◆動脈硬化性疾患の高リスク状態を表す状態です。肥満、糖尿病、高血圧、高脂血症は、お互いに合併しやすく、しかも、これらの合併する個数が多いほど動脈硬化性疾患(脳血管疾患や虚血性心疾患の危険が高まります。

◆高血圧はメタボリックシンドロームを構成する重要な疾患の一つです。今回高血圧治療ガイドライン2004年版(日本高血圧学会)が出版されたことから、今回は高血圧についての情報をお届けします。


生活習慣の乱れから肥満が生じ、ドミノ倒しのように高血圧、高脂血症、食後高血糖さらには糖尿病を発病し、動脈硬化が進んで上の図のような様々な疾患が引き起こされます。ドミノが最後まで倒れると腎不全(血液透析)、失明(糖尿病性網膜症など)、脳卒中、痴呆、心臓病などの、後戻りできない恐ろしい病気になってしまいます。これらを予防するためには、一番上流の部分、すなわち生活習慣を改善し、肥満にならないようにすることが一番大切です! メタボリックシンドロームの診断基準(NCEP-ATP III・・・米国の診断基準 JAMA2001より)

1. 腹囲 男>102cm 女>89cm (日本人:男>85cm 女>90cm)
2. 中性脂肪 ≧150mg/dl
3. HDLコレステロール 男<40mg/dl 女<50mg/dl
4. 血圧 ≧130/85
5. 空腹時血糖 ≧110mg/dl

上記のうち3項目以上をみたす場合、診断されます。
(腹囲は日本肥満学会のデータです)

●米国のメタボリックシンドローム(男750万人 女900万人)の人々を治療しないで放置すると、今後10年間で男150万人(20%)、女45万人(5%)が虚血性心疾患になると推測されています。(Wong NT et al. Am J Cardiol 2003年)すなわち、メタボリックシンドロームはの基準を満たす場合は、生活習慣改善を含む積極的な治療が必要です。

●MRFIT研究(JAMA1990年)では、高コレステロール血症、高血圧、喫煙の3つの危険因子を合併する数が多いほど、虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞)になりやすくなることが示されました。メタボリックシンドロームの患者さんはこれらの危険因子を複数持っている状態であり、虚血性心疾患を将来起こしうる危険な状態です。
左図のように、高血圧、高コレステロール血症、喫煙の3つの危険因子を合併する数が多いほど、虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞)になりやすくなります。

この中で特に、糖尿病があると、虚血性心疾患のリスクが飛躍的に高まります。糖尿病は、図の中にある3つのリスクファクターの2つ分に相当するのです。糖尿病はいかに恐ろしい病気かわかります。

2.高血圧について

高血圧の診断 (高血圧治療ガイドライン2004年版)
カテゴリー 収縮期血圧  
拡張期血圧
至適血圧 120未満 かつ
80未満
正常血圧 130未満 かつ
85未満
正常高値血圧 130―139 または
85−89
軽症高血圧 140−159 または
90−99
中等症高血圧 160―179 または
100―109
重症高血圧 180以上 かつ
110以上
収縮期高血圧 140以上 かつ
90未満
降圧目標:140/90 mmHg以下(家庭血圧の125/80に相当します)が基本です。
 ⇒若年・中年者は努力目標として130/85 mmHg未満が設定されています。
 ⇒糖尿病または腎臓病がある場合:130/80 mmHg未満が目標

2次性高血圧の診断:高血圧は、本態性高血圧(基礎疾患がない高血圧、いわゆる普通の高血圧)と、内臓の病気が原因の2次性高血圧があります。高血圧を治療する前に、検査で2次高血圧でないかを調べます。
 ⇒2次高血圧の原因疾患
   ◆副腎の疾患 褐色細胞腫、原発性アルドステロン症、クッシング症候群
   ◆腎疾患 腎血管性高血圧、腎炎、のう胞腎など
   ◆血管の疾患 動脈硬化、血管炎など

血圧を下げなければならない理由:
@日本の久山町研究から、男性・女性とも血圧が140/90mmHgを超えると、長期追跡調査の結果脳梗塞の発病率が明らかに高くなることがわかっています。つまり、140/90mmHg以上の高血圧は積極的に治療する必要があるのです。
A脳血管障害は収縮期血圧を10mmHg、拡張期血圧を5mmHg下げると発病を45%も抑制できることがわかっています。
(図)久山町研究 男性・女性とも、血圧が140/90mmHg以上になると脳梗塞の発症率が急速に上昇することがわかります。
すなわち、血圧が140/90mmHg以上の場合は積極的な治療が必要です。

高血圧の重症度
高血圧のリスクを層別化して(低・中等・高リスクに分類)、患者さんの重症度に応じて薬物治療を開始するまでの生活習慣改善の期間の目安が定められています。
表の中の危険因子とは? @高血圧 A喫煙 B糖尿病 C高コレステロール血症 D高齢(男性60歳以上、女性65歳以上) E若年発症の心血管病の家族歴 F低HDLコレステロール G肥満 H尿中微量アルブミン の9つを指します。

治療計画
 ⇒正常高値血圧の場合: 糖尿病や腎疾患があれば降圧薬で治療します。
 ⇒低リスクの場合: 3ヵ月後に高血圧のままなら降圧薬を開始します。
 ⇒中リスクの場合: 1ヵ月後に高血圧のままなら降圧薬を開始します。
 ⇒高リスクの場合: 直ちに降圧薬を開始します。

家庭での血圧測定の方法
家庭で測定する血圧は、外来血圧(病院での測定)よりも脳梗塞の発症・死亡を予測するのに優れていることが明らかにされました。
自動血圧計は家電量販店で比較的安価に購入できますので、高血圧の方は、是非ご家庭での測定をお勧めします!
 ⇒血圧計は上腕で測定するものがお勧めです
 ⇒家庭血圧の正常値:125/80mmHg未満です(日本内科学会誌2004)
   (135/85mmHgを超えると有意に脳卒中の発症が高まるため治療が必要
 ⇒朝と夜、それぞれ1回ずつの測定で十分。
   ◆朝は起床後1時間以内、排尿後、食事前、座って1−2分落ち着いてから測定(薬を飲む前)。
   ◆夜は就眠直前に同様の方法で。
 ⇒家庭血圧での適切な降圧レベルは125/80mmHg未満とされています。この血圧は、外来血圧の140/90mmHgに相当します。
   ちなみに、治療が必要な家庭血圧135/85mmHgは、外来血圧の160/100mmHgに相当します。

治療の流れ
1)生活習慣の改善をおこないます(1から3ヶ月間)
@食事療法
 ⇒減塩・・・塩分は1日6g以下(以前は7g以下でしたが、今回更に厳しくなりました)。
   1gの減塩につき、収縮期血圧は1−2mmHg下がるとの報告があります。
 ⇒ミネラル(カリウム、カルシウム、マグネシウム)や食物繊維をしっかりとる。(新鮮な生野菜、果物、海藻類など)
 ⇒肥満がある場合は、糖尿病に準じたカロリー制限をおこないます。(BMIが25を超えないようにする
          適正な体重の達成(理想はBMI=22)・・・1ヶ月に1kgを目安に減量する
          BMI=体重(kg) / {身長(m)}2(BMIの正常範囲は18.5〜24.9)
          理想体重={身長(m)}2 X 22 
          例えば身長160cmの場合、理想体重は 1.6 X 1.6 X 22=56.3kg
          ・・・この機会に、ご自分のBMIと理想体重を計算してみてください。
 ⇒アルコールについて
  エタノール換算で1日30ml(女性では20ml)以下(日本酒1合、ビール350ml程度)が心筋梗塞の死亡率が最も低いとされています。
A禁煙
 癌の予防のみならず、生活習慣病全ての予防に重要です!
  喫煙はHDLコレステロール(善玉)を低下させます。また、LDLコレステロールを酸化します。
  喫煙による酸化ストレスで、血管が傷害されて血液が固まりやすくなり、動脈硬化が進んでしまいます。
B運動 
 心血管疾患がない場合に積極的に行います。有酸素運動を毎日30分以上おこないます。
 以下に運動療法について簡単に述べます。

運動療法(ニコニコペースで!)
運動療法のやり方は、生活習慣病である高血圧、糖尿病、高脂血症とも共通です。
ニコニコペースとは、会話をしながら実行できる程度の運動です。

 ⇒できれば毎日、中等度の強さの運動で(*適切な心拍数を参照)行います。
 ⇒血圧が高い場合(180/100mmHg以上)は運動は危険です。適切な薬物治療で降圧してから行います。
 ⇒ウォーキング、ジョギング、水泳、自転車などの全身運動が適当です。
 ⇒食後に、1日30分程度行います。
 ⇒準備運動(5分程度)、整理体操(5分程度)を行います。
 ⇒1日の合計の歩数が10,000歩以上(距離として4km程度、350kCal相当)を目指します。
             *適切な心拍数:138−(年齢/2)・・・最大酸素摂取量の約50%に相当

運動療法の意義
 ⇒食後に運動することで、筋肉に糖が取り込まれ、血糖が低下します。
 ⇒軽い運動はお腹の内臓脂肪を分解する良い働きがあります。
 ⇒運動すると、約4週間で収縮期血圧(上の血圧)が約10mmHg低下してきますが、
   運動を中止すると1ヶ月後には血圧は元に戻るので、継続することが重要。
 ⇒体重を1kg減量するには・・・7000kCal必要(1日10000歩で3週間かかる)

薬物療法・・・治療効果は世界的に確立されています。
<主な降圧薬> 下記の代表的な4種類以外にもいくつか有用な降圧薬があります。

@ カルシウム拮抗薬(略してCa拮抗薬)・・・血管が収縮すると血圧が上がります。血管が収縮するとき細胞の外から中にカルシウムが流入しますが、この薬はこの流入を阻害して、血管を拡張させ、血圧を低下させます。この薬は、強力な降圧作用があり、脳卒中、心筋梗塞の予防などに明らかな効果があります。

A アンギオテンシン転換酵素阻害薬(略してACE―I)・・・アンギオテンシンは血管を収縮させて血圧を上げたり、腎臓や心臓の機能を低下させます。アンギオテンシンを減少させるこの薬は、心不全、糖尿病、脳卒中、腎臓病などの患者さんの生命予後を改善することが明らかにされています。

B アンギオテンシンII受容体拮抗薬(略してARB)・・・一番新しい薬です。Aのアンギオテンシン転換酵素阻害薬と作用機序は似ていますが、咳などの副作用が少なく、心不全、糖尿病、脳卒中、腎臓病などの予防・改善効果が明らかにされています。

C 利尿薬・・・体に塩分がたまると血圧が上昇します。利尿薬は、水分とともに塩分を体外に排出し、血圧を下げます。AやBとの併用で降圧効果が増強します。

高血圧の治療の進め方
例として高齢者の治療の進め方を下の図に示します。若年者の治療もこれに準じて行われています。第1ステップでは上記の@〜Cまでの薬の中から1種類の薬で治療を開始し、効果が不十分な場合、第2ステップ(2薬併用)、第3ステップ(3薬併用)と使用する薬の種類を増やして、適切な血圧レベルに維持します。


降圧薬による疾患の予防
降圧薬により、脳卒中、心臓病、腎臓病の発病を予防できることは明らかです。最近、日本人の国民病で、増加し続けている糖尿病の発病も降圧薬である程度予防できることが明らかにされています。
海外での様々な大規模臨床研究により、 アンギオテンシンIIを抑制する降圧薬(上の分類のAアンギオテンシン転換酵素阻害薬、BアンギオテンシンII受容体拮抗薬)を服用すると、糖尿病の発病が約20〜30%予防できることがわかっています。


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