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平田クリニック かわら版 No.11 (2006年7月)


第11回 関節リウマチの早期治療開始の重要性について


1. 関節リウマチの早期診断・早期治療はなぜ重要なのでしょうか?

関節リウマチでは、不可逆的な(後戻りできない)関節破壊が、早期に、多くは最初の1年以内に起こります。
下の図のように、最初の1年間での関節破壊の進行速度は、2年目、3年目に比べて有意に速いことがわかっています。
下の図では、3年後に全関節の約20%が関節破壊を示したことがわかります。
Van der Heijdeらによると、関節リウマチ患者さんの約70%が、3年後にはX線画像において関節破壊を示していました。
左の図からは、発病後1年間の関節破壊が急に進み、2年目、3年目は進行の速度がやや低下することが示されています。
すなわち最初の1年のうちに治療を開始すれば関節リウマチを進行させずに済みます。

図の中の「MTP」とは、足の指の付け根の関節のことです。


2. 早期の治療開始により、関節リウマチの予後(機能障害)は有意に改善されます

下の図は、治療が関節リウマチ患者さんの5年後の機能障害をどれくらい軽減したかを評価した研究結果です。
対象者は英国の384名のリウマチ患者さんです。患者さんを以下の3群に分けました。

【1】発症6ヶ月以内に治療を開始した群
【2】発症6ー12ヶ月に治療を開始した群
【3】発症12ヶ月以上経ってから治療を開始した群
対照群はリウマチの治療が必要ないと判断された患者さん群でした。


治療開始時点と5年後に健康評価質問表(HAQ: Health Assessment Questionnaire)を用いて機能障害を評価しました。

左の図の縦軸の数値は1.0を超えていれば対照群より障害が強いことを示し、1.0であれば対象群と同じ、1.0未満であれば対照群より障害が少ないことを示しています。
6ヶ月以内治療開始群では障害度0.9と対照群と同程度でしたが、他の2群では障害度がいずれも2以上であり、治療開始が遅れると中等度の関節機能障害を来たす危険性が高まることを示しています。
5年後の結果は、上の図に示されています。すなわち、
【1】発症6ヶ月以内に治療を開始した群では中等度機能障害(HAQスコア1以上)が対照群(リウマチの治療が必要ないと判断された患者さん群)と同等でした。
一方、【2】発症6ー12ヶ月に治療を開始した群【3】発症12ヶ月以上経ってから治療を開始した群では5年後に中等度機能障害を来たす危険性は2倍以上でした。

このように、関節リウマチの早期治療は、中等度機能障害の危険性を、治療を必要としない対照群と同程度まで低下させるほど有効でした。一方、治療開始が発病6ヶ月以上後になると、5年後に機能障害を来たす危険性が高まることが示されました。

以上のように、これまでの世界的な研究から、発病早期から有効な抗リウマチ薬を積極的に使用することで、炎症反応を抑制し、X線画像上の関節破壊進行を遅らせることが分かりました。

3. 早期関節リウマチへ生物学的製剤を使用して関節破壊を食い止める (Clair EWS, et al. Arthritis Rheumatism 2004)
この研究では、発病して3年未満の早期リウマチ患者さん1049名(腫脹関節10箇所以上、疼痛関節12箇所以上、CRP2.0mg/dl以上あるいはレントゲンで関節破壊の所見がある、という重症の患者さん)にメソトレキセート(以下、MTX)(商品名:リウマトレックス、メトレート)単独で治療する場合と、MTXとTNFα阻害薬(インフリキシマブ、商品名レミケード)を併用した場合の1年後の予後を比較しました。TNFα阻害薬(商品名:レミケード、エンブレル)は、現在の抗リウマチ薬で最も強力に関節破壊を抑えることができる治療薬です。



1. 関節リウマチの寛解率
DAS28というスコア(疼痛関節数、腫脹関節数、CRPの数値、患者さんの評価の4項目で計算)で治療開始1年後の寛解率を調べると(このスコアが2.6未満を寛解と定義します)、MTX単独群では15%だったのに対し、レミケード3mg/kg併用群は21.2%、レミケード6mg/kg併用群は31%と、レミケード併用群が有意にMTX単独群より寛解率が良好でした。

左の図で、縦軸は治療開始54週後のDAS28スコアで寛解した患者さんの割合を示しています。レミケード6mg/kg併用群では有意に寛解率が高いことが示されています。

2. レンドゲンによる骨破壊の進行

総シャープスコアという尺度を用いて1年後のレントゲン(手と足)での骨破壊を比較すると、MTX単独群では平均で3.7と進行していたのに対し、ミケード3mg/kg併用群は0.4、レミケード6mg/kg併用群は0.5と、レミケード併用群が有意にMTX単独群より骨破壊が抑制されました。総シャープスコアは、ゼロなら進行なし、正の数が大きいほど進行が強い、負の数が大きいほど修復が強い(関節リウマチの骨破壊が回復)を表します。

左の図は治療開始54週間のレントゲンによる関節破壊の進行の程度を比較しています。数値がゼロなら進行していないことを示します。
(平均値±標準偏差)
レミケード併用の2群とも進行が食い止められています。
このように、重症の患者さんに早期から生物学的製剤を併用した治療を導入することで、関節破壊を食い止めることができます。


4. 生物学的製剤は効果は高いが費用も高い。治療中断後の経過はどうなるのでしょうか?
(Quinn MA, et al. Arthritis Rheumatism 2005)

これは発病早期(1年以内)の患者さん20名のうち10名はMTX+プラセボのみ、10名はMTX+レミケード3mg/kgの併用で1年間治療し、1年後にレミケードを中止して更に1年間効果の持続を観察した研究です。

(1)DAS28スコアの変化
MTX+レミケード3mg/kgの併用群では、14,54,104週後で有意に(p<0.005)疾患活動性が改善しています。
104週後のDAS28の中央値は、DAS28でリウマチの寛解を表す2.52まで低下しました。(2.6未満だと寛解を示します)
レミケード+MTX併用群では、治療開始後早期に寛解して、しかもレミケード中止後の1年間、効果が継続していることを示しています。グラフは各群10名の中央値の推移を見ています。

(2)レミケード点滴終了後の1年間の観察

レミケードを54週から中止し、更に1年間観察しました。すると、驚くべきことに、10名の患者さんのうち、7名が効果が持続していました。(下のグラフでDASスコアが低い値で推移している)すなわち、早期のリウマチ患者さんであれば、レミケードは1年間だけの治療で70%は有効を維持できたことになります。残りの2名は、残念ながらレミケードを中止するとリウマチが再燃しました。
(下のグラフでDASスコアが途中から上昇している)このような場合、再びレミケードを再開する必要があります。
レミケード+MTX併用群10名の患者さんの、個々の推移です。このグラフでは、レミケード終了後の1年間を観察しています。10名のうち2名だけ、レミケード中止後にリウマチの活動性が上昇しています。1名は、レミケードが無効で、DAS28は高いままです。その他の7名は、レミケード中止後1年間リウマチの活動性は抑えられています。
すなわち、発病のごく早期に強力な治療を開始すれば、症状が寛解したあとにレミケードなどの高価な生物学的製剤を中止しても、多くの患者さんで症状の寛解が維持できる可能性を示しています。

医療費の高騰が叫ばれる昨今の日本で、今後の関節リウマチ治療の課題は、有効だが高額な薬剤をいかに合理的に使用するかということです。リウマチの活動性が高く、重症の患者さんの場合、リウマチ発病早期には強力だが高価な薬剤で積極的に治療し、寛解が得られたら、高価な治療薬は可能であれば減量してゆくのが理想的です。現在のところこのような研究は始まったばかりであり、これから少しずつ成果が発表されてゆくと思われます。
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