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平田クリニック かわら版 No.14 (2007年7月)

第14回 2007年日本リウマチ学会ハイライト

2007年日本リウマチ学会は4月に横浜市で開催されました。
学会で発表された多くの報告のなかから、現在、関節リウマチ治療で最も期待されている、腫瘍壊死因子(TNF)を阻害する薬剤である生物学的製剤(レミケード、エンブレル)、および、新しい免疫抑制剤のプログラフについて、いくつかの注目すべき報告をご紹介します。

1. エンブレル(一般名:エタネルセプト)
通常は週2回注射で使用します。関節リウマチで関節を破壊する腫瘍壊死因子(TNF)を阻害するTNF受容体・ヒト免疫グロブリン融合蛋白の薬剤です。効果は非常に高いのですが、治療費も高価な薬剤であるため、今年の学会では、いかに少ない使用量(すなわち、安い医療費)で治療できるか、という報告が多くみられました。

1)102名のリウマチ患者さんをエンブレル週1回注射とエンブレル週2回注射の2グループに分けて効果を6ヶ月間観察
(聖マリアンナ医大 今村氏)

●DAS28改善率(※1:文末脚注を参照)には両グループで差を認めなかった。
●効果不十分であった患者さんの比率にも両グループで差を認めなかった。
●副作用としての感染症は2名発現したが、2名とも週2回注射の患者さんであった。

エンブレルは通常では週2回の注射ですが、日本人では、週1回のエンブレルでも十分な効果があったと報告しました。日本人は一般的に欧米人より体格が小さいため、欧米人よりも少量のエンブレルでも効果が得られる可能性がある、と考察しました。

2)エンブレルはどのような場合に週1回注射で有効なのかを観察
(近畿大 菊池氏)

エンブレルを3ヶ月以上使用した19名の患者さんのうち、週1回注射で効果が得られた患者さんの背景(治療開始前の状態)を調査しました。
●週1回注射が可能であった患者さんは8名だった。
●この8名のうちレントゲンでStage1(初期の変化のみ認められる)が4名、罹患5年以内が5名(63%)、平均CRP値は1.6mg/dlだった。
●残りの、週2回注射が必要だった患者さん11名は、初期の患者さんは少なく罹患5年以内が36%しかおらず、平均CRP値は4.7mg/dlと高値を示した。

発病の比較的早期で、治療開始前の炎症反応が比較的低値(平均CRP1.6mg/dl)である患者さんは、週1回注射で有効でした。発病後かなり時間が経過していて、炎症反応が強い場合は、週2回の注射が必要であることが多いとの報告でした。

3)エンブレル週1回注射と週2回注射の比較
(西美濃厚生病院 佐藤氏)

週1回注射9名、週2回注射7名を追跡
●週1回注射グループは、9名のうち8名が良好な効果で、そのまま週1回を継続したが、1名は効果不十分で週2回に増量した。9名全例が改善基準DAS28で中等度改善以上の成績だった。
●週2回注射グループの7名は、1名が肺炎を起こし週1回に減量、3名は効果が良好なため、週1回注射に減量できた。

週1回注射は多くの患者さんで有効であり、週2回で有効な患者さんも、一部が週1回注射に減量可能でした。重篤な副作用の予防や、医療費削減の観点から、エンブレルの週1回注射は考慮すべき価値があるとの報告でした。

エンブレルは週2回から開始して、十分な効果が得られたら週1回に減量する、という方法(ステップダウン)と、週1回から開始して、効果が少ない場合は週2回に増量する(ステップアップ)という2つの方法が各施設から発表されていました。患者さんの状態により、どちらの方法を選択しても良いと思います。



2.レミケード(一般名:インフリキシマブ)
レミケードはTNFαに対する抗体で、維持療法では8週間に1回、点滴で治療します。効果はエンブレルと同等の優れた薬剤です。しかし、エンブレルと同様に高価な薬剤です。そこで、レミケードの治療で関節リウマチが寛解した場合に、レミケードを中止できるか、ということがトピックとなっています。また、レミケードを数回注射するうちに、当初の臨床効果が減弱することがあり、これを防ぐにはどうすればよいか、という点も話題になりました。

1)レミケードを中止できる患者さんはどのような背景か
(産業医大 名和田氏)

レミケードは発病早期から積極的に使用してリウマチの寛解を目指すことにより、寛解導入後は治療を中止できる(医療費を抑えられる)ことができます。この報告は、レミケードで治療中のリウマチ患者さん200名以上のなかから、効果が良好でレミケードを中止できた患者さん10名を分析し、どのような場合に中止できるのかを検討しました。
●レミケード中止の基準は、メソトレキセート(MTX)以外の併用薬を中止し、6ヶ月以上寛解した場合とした。
●治療を中止できた10名の平均罹病期間は3.1年であり(発病早期)、レミケード使用前の血清MMP-3(※2:文末脚注を参照)は364ng/mlと低値で(400未満であれば中止できる可能性が高い)、9名がステージ2
以下(レントゲンで初期の変化)だった。
すなわち、発病早期(3年未満)で、血清MMP-3が低値ではレミケードの効果が高く、治療を中止しても寛解が維持できる可能性があると報告されました。

2)レミケード治療中の肺炎の危険因子(鹿児島赤十字病院 児玉氏)
●レミケード使用中の135名のうち、治療中に肺炎(細菌、及びニューモシスチスによる)を起こした12名の患者さんを検討した。
●この患者さんの平均年齢は65歳、全員がプレドニンを内服しており、1日5mg以上であった。

すなわち、ステロイドを内服していること、高齢者であること、が肺炎の危険因子であった。このことは海外の報告でも既に確かめられています。レミケードを使用する場合、治療開始後は、なるべくステロイド内服量を減量することが合併症の予防のために必要です。

3)レミケードの効果が減弱した場合の対処法 その1(神戸大 三浦氏)
●レミケードが治療開始当初には効果があったものの、治療8回目には効果が減弱し、2週間しか効かなかった57歳の患者さん(1名)に、週1回内服のメソトレキセート(MTX)を10mgから12.5mgに増量した。
●すると、治療9回目以降、レミケードの効果が復活した。これは、MTX増量によって、効果減弱の原因である抗レミケード抗体(HACA)が減少したことによると考えられた。

MTXを少し増量しただけで、レミケードの治療効果が復活したと報告されました。この方法は、医療費も安価で、比較的行いやすい方法です。

4)レミケードの効果減弱患者さんへの対処法 その2(埼玉医大 竹内氏)
●レミケードは、時に、治療開始22週(レミケード点滴5回目)以降に効果減弱が認められる
●このような患者さん22名に対し、レミケード点滴前にステロイド薬(プレドニゾロン)静脈注射(20―40mg)を行うことにより、17名(77%)で効果が回復した。
●これは、ステロイド薬により抗レミケード抗体(HACA)の出現を抑えることによってもたらされた効果であると述べた。(HACAが産生されるとレミケードの効果が減弱します)

ごく少量のステロイド注射を8週間に1回のみ行うことで、レミケードの効果が回復することがわかりました。この方法は副作用もほとんどなく、安全かつ簡単におこなうことができる画期的な方法です。この方法によるレミケード治療効果の回復は、現在全国的に治験が行われており、近い将来結果が発表されると思われます。



3.プログラフ(一般名:タクロリムス)

プログラフは、リンパ球であるT細胞からのサイトカイン(TNF,インターロイキン-6(IL-6)など)産生を阻害する免疫抑制薬として、従来、臓器移植やアトピー性皮膚炎に使用されてきた免疫抑制薬ですが、2005年4月から関節リウマチにも使用可能となりました。プログラフ3mg/日の効果はメソトレキセート(MTX)8mg/週(最大量)とほぼ同等で、しかも、MTXでみられる血球減少、間質性肺炎の副作用がほとんどなく、高齢や、間質性肺炎を有する場合にも使いやすい薬剤で、最近使用される機会が増加しています。プログラフは単独での使用でも有効ですが、MTXや生物学的製剤に併用すると、リウマチに対する有効性が更に高まることが報告されています。

1)生物学的製剤の効果不十分な患者さんへのプログラフ併用の効果(名古屋大 石川氏)
●レミケード、エンブレルを使用中だが効果が不十分の患者さん12名にプログラフを1mgから3mg(平均1.75mg)追加併用した。
●12名のうち1名が副作用で中止となったが、残りの11名のうち8名(73%)でDAS28スコアの中等度改善以上の効果が得られた。

強力な生物学的製剤を用いても効果不十分な患者さんが10%程度あり、問題となっています。この報告では、プログラフの、生物学的製剤への上乗せ効果が認められました。

2)メソトレキセート(MTX)とプログラフの併用効果について(東京大 川畑氏)
●MTXが効果不十分なためプログラフを追加併用した20名の患者さんの効果を、プログラフ2mg以下の群とプログラフ3mgの群にわけて比較した。
●併用後4ヶ月のDAS28スコアは、2mg以下の群が(5.2→3.3へ改善)、3mgの群が(5.4→3.1へ改善)と、両群に改善度の差を認めなかった。

プログラフは高価な薬剤のため、副作用や医療費からみても通常量の3mgより少ない、2mg以下をMTXに併用して効果が示されたことは、有意義なことです。


(脚注)
※1:DAS28 関節リウマチの活動性を表す指標で、近年世界的に用いられています。全身28関節の圧痛、腫脹、炎症反応(CRPまたは赤沈値)などから計算して求めた数値で、数が大きいほどリウマチの活動性が高いことを示します。
(DAS28>5.1:活動性が高い、DAS28 3.2〜5.1:活動性が中等度、DAS28<3.2:活動性が低い)

※2血清MMP-3(マトリックスメタロプロテアーゼ-3)関節リウマチの増殖した滑膜組織から分泌される蛋白分解酵素のひとつで、関節リウマチの活動性が高いほど、血液中のMMP-3値も高値となります。また、MMP-3値と関節破壊の予後は相関することがわかっています(値が高いほど、関節破壊が進みやすい)。

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