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平田クリニック かわら版 No.15 (2007年12月)

第15回 当院におけるアレルギー免疫療法(減感作療法)の4年間の経過と免疫療法の医療費について

1.当クリニックでのスギ花粉症、ハウスダスト鼻炎に対する免疫療法の効果

当クリニックでは、開院の2003年当初からスギ・ハウスダスト・ブタクサなどによる、主にアレルギー性鼻炎に対する免疫療法を施行していますが、2007年12月現在、延べでスギ65名、ハウスダスト43名、ブタクサ7名の方々が治療を受けて頂きました。

今回は、開院以来4年間のスギ花粉とハウスダストによる免疫療法の治療効果をまとめました。
今回の集計は今年の11月時点で調査にご協力いただいた、その内の40名の方々の結果です。

調査の対象:
アレルゲン スギ ハウスダスト
患者さんの背景 男性13名 女性16名 男性7名 女性4名
平均年齢 34.4歳(分布は10歳〜55歳) 28.6歳(分布は11〜45歳)

1)免疫療法によるスギ花粉症の自覚症状の改善
スギ花粉の飛散時期における自覚症状の程度を、下記のような100mmのスケールで患者さんにチェックしていただき(ビジュアル・アナログ・スケール(VAS)といい、症状が全くない場合=0mm、最悪の症状=100mmとします)、免疫療法の効果を検討したものを下記に示します。

左の図は、城西大学薬学部の観測による、埼玉県坂戸市における最近5年間の1シーズン当たりのスギ花粉の総飛散数です。2005年は近年では非常に多い飛散数でしたが、2006・2007年は比較的飛散が少なく、症状が軽症で済んだ方も多かったと思います。

下のグラフは、対象患者さんのうち、特に2003年から2007年まで継続して免疫療法を受けた患者さん9名の経過です。
(統計処理はWilcoxonの符号順位和検定という方法を使用しました。確率pの数値が0.05より小さい場合に有意な変化であると判定します。)

自覚症状については、
● 花粉がやや多かった2003年と、非常に多かった2005年との比較でも有意に症状が改善したことが分かります。(p=0.0077)
●2003年と2007年との比較(p=0.0077)、2005年と2007年との比較(p=0.0152)でも、それぞれ有意に改善していることが分かります。

このように、免疫療法を長期に継続するに従い、花粉の飛散数に関係なく症状が経年的に改善してゆくことがわかります。
このことから、免疫療法は3から5年継続することが重要であることがわかります。
左の図で、縦軸は臨床症状の程度を表し、数値が大きいほど(最大100mm)症状が重症であることを表しています。 免疫療法を継続することにより、年を追って臨床症状が改善してゆく様子がわかります。

次に、下の図に、2005年から新たに免疫療法を開始した患者さんを含む29名の2005年から2007年までの経過をお示しします。2005年に新たに免疫療法を開始した患者さんが多かったのは、この年の花粉の飛散量が非常に多く、重症であった患者さんが多かったためと思われます。

左の図に29名の患者さんの経過を示します。2003から2006年のどれかの年から免疫療法を開始しました。2005年と2007年の臨床症状は有意に改善しています。
(p=0.0000)



2)免疫療法によるハウスダスト鼻炎の自覚症状の改善

次に、ハウスダストによる通年性のアレルギー性鼻炎に対する免疫療法の効果を、調査に協力していただいた11名の患者さんについてお示しします。

【1】免疫療法による自覚症状の改善

免疫療法を開始後、2005年と2007年の間に臨床症状の有意な改善が認められます。
(p=0.0080)


【2】免疫療法による重症度の推移
下の図に3年間の重症度の推移をお示しします。くしゃみ発作・鼻をかむ回数、鼻づまりの程度から、鼻アレルギー診療ガイドライン2002年版(鼻アレルギー診療ガイドライン作成委員会)に基づき、
1=無症状   2=軽症   3=中等症   4=重症   5=最重症

の5段階に分類しました。すこし分かりにくい図ですが、2005年から2007年の間に、重症度の有意な改善を認めます。
(p=0.018)

左の図は、11名の患者さんの重症度の推移を示しています。グラフの縦軸で、数値が大きいほど重症であること示しています。2005/2007年で有意な改善を示しています。




2.スギ花粉症に対する減感作療法(抗原特異的免疫療法)の医療費は薬物療法のみより安い
(湯田厚司ら アレルギー2007;56:1366 日本アレルギー学会)
免疫療法はスギ花粉症の治療で、唯一根治を望める治療法ですが、一部では高額な治療であると誤解されているのが現状です。実際にはスギの標準化アレルゲンエキスを0.2ml注射するときの1回の通院医療費は、保険診療の3割負担の場合500円程度であり、安価な治療法です。そこで、免疫療法の医療費がどれくらい掛かるかを、一般的な薬物療法のみの場合と比較したのがこの興味深い研究です。この論文は、今年の日本アレルギー学会雑誌に発表されました。スギ花粉の大量飛散(2005年)、中等度飛散(2003年)、少量飛散(2004年)の時に、同じ患者さんが支払った医療費を計算し、免疫療法群の患者さん18名と薬物療法のみ群の患者さん18名を比較しました。
上記の図は、花粉症に処方された「薬剤費」の比較です。免疫療法群では、注射の薬剤費は含まれていません。少量飛散年は薬物療法群が平均13670円、免疫療法群が3070円、中等量飛散年は薬物療法群が23090円、免疫療法群が6050円、大量飛散年は薬物療法群が27220円、免疫療法群が5290円でした。免疫療法群の方が薬剤費が少なくて済んでいることがわかります。これは免疫療法の効果により、服用する薬剤が少なくて済んだことが原因です。さらに、薬物療法群では花粉の飛散が多いほど薬剤費も有意に増加しています。図の「ns」は、有意差が無いことを表しています)。一方、免疫療法群では花粉量が増加しても薬剤費は有意差なく増加しませんでした。



それでは、免疫療法の注射薬の費用も含めた総医療費は、2群間でどうだったのでしょうか?下の図に結果が示されています。

図の下側の略号で、M−Gは薬物療法群、IT−Gは免疫療法群、を表しています。

総医療費の比較では、少量飛散年が薬物療法群が平均16680円、免疫療法群が14980円で、中等量飛散年では薬物療法群が26670円、免疫療法群が19710円で、大量飛散年では薬物療法群が30780円、免疫療法群が20660円となっています。中等量および大量飛散年では有意に免疫療法群の方が総医療費が少なく、しかも、飛散量が多いほど2群間の総医療費の差は大きくなり、免疫療法群の方が、より総医療費が少なくて済むようになりました。免疫療法群の方が総医療費が少なくて済む原因は薬剤費が少ないことが原因でした。

両者の治療の満足度を比較したのが下の図です。患者さんにアンケートを行い、VAS(100mmの物差しを用いたビジュアル・アナログ・スケール)にて調査しました。100に近いほど治療が満足、ゼロに近いほど治療に不満足、を表します。

VASの数値は薬物療法群が平均51.9、免疫療法群が76.9で、免疫療法群で有意に治療満足度が高いことがわかりました。

すなわち、スギ花粉症の免疫療法は1年あたりの総医療費が、薬物療法のみの場合と比較しても安く、しかも、花粉の飛散量が多くなる程、薬物療法のみの場合より安さの度合いが大きくなることが分かりました。

季節的なスギ花粉症でさえこのような結果でした。それにも増して、例えばハウスダストのような通年性のアレルギー性鼻炎においては、ほぼ1年中薬剤が必要となることから、1年分の薬剤価格と免疫療法エキスの価格を比較すると圧倒的に前者の薬剤価格が高価であるため、免疫療法の方が医療費が安くなることは明らかです。

このように、スギでもハウスダストでも、免疫療法は経済的な治療法です。今後は注射だけでなく、舌下免疫療法(治療エキスを舌下に滴下して2分間、口に含む治療で、ヨーロッパでは既に実用化されていますが、日本ではまだ臨床研究の段階です)など、より苦痛の少ない治療法が保険適応されれば、身近な治療法になることが期待されます。



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