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平田クリニック かわら版 No.16 (2008年2月)

第16回 当クリニックにおける関節リウマチへの生物学的製剤の治療について

1.関節リウマチの治療は大変革を迎えました
関節リウマチでは、不可逆的な(後戻りできない)関節破壊が、発病の早期に、多くは最初の1年以内に起こります。特に、最初の1年間での関節破壊の進行速度は、2年目、3年目に比べて有意に速いことがわかっています(詳しくは以前の平田クリニックかわら版「関節リウマチの早期治療開始の重要性について」をご参照ください)。そこで、近年リウマチの治療方法は大変革がなされ、早期から積極的な薬物治療で関節破壊を起こさず、仕事など日常生活に支障がないことを目標にしています。
左の図で、NSAIDsは痛み止め、DMARDsは抗リウマチ薬の略号です。生物学的製剤の登場により、リウマチの治療の目標は、関節破壊を起こさないこと、DAS28が寛解基準を満たすこと、CRP(炎症反応)が正常なこと、仕事が続けられること、という高い目標が設定されました。

上の図のように、リウマチの診断がなされたら、すぐさま抗リウマチ薬(DMARDs)を用いて3ヶ月経過を見ます。DMARDsとは、リマチル、アザルフィジンEN、疾患活動性が高い場合はリウマチの世界標準治療薬であるメソトレキセート(MTX)、以上の3つが該当する薬剤です。それでも改善傾向がない場合には、生物学的製剤(レミケード、エンブレルなどの抗TNFα療法)あるいはプログラフという免疫抑制薬を追加併用し、積極的な寛解導入を図る、というのが最新の治療法となっています。当クリニックでも、この生物学的製剤を用いた治療に取り組んでおり、当院に通院されている80名以上のリウマチ患者さんのうち、現在まで約20名の患者さんにこの治療を取り入れ、顕著な効果を得ています。今回は現在までの当クリニックでの治療効果の概要をご紹介します。



2.当クリニックでの生物学的製剤による治療(治療を開始して間もない患者さんは除外しています)
レミケード7名(男性2名 女性5名 平均年齢51歳)
エンブレル11名(男性1名 女性10名 平均年齢60歳)

レミケードとエンブレルの概要を下の図にお示しします。レミケードは外来での点滴治療、エンブレルは外来または自宅での自己注射にて使用します。両者の効果はほぼ同等で、MTXを含む従来の薬剤より格段の有効性を誇っています。これらの使用により、今までは困難だった関節破壊の進行を止める働きがあります。


(1)レミケードによる治療の経過
下の図は、治療開始前と、その後6,12,24ヶ月のDAS28スコア(疼痛関節数、腫脹関節数、CRPの数値、患者さんの評価の4項目で計算)の変化、および、炎症反応CRPの変化を示しています。それぞれ、治療開始前と比較して、6、12ヵ月後で有意な改善を示しています。24ヵ月後は、患者さんの数が少ないため、統計学的な検定ができませんでした。
DAS28スコアは近年リウマチの活動性を把握するのに世界的に使用されているものですが、図のように数値が小さいほど活動性が低いと判断します。2.6未満であれば「寛解状態」で、リウマチの症状がほぼ無くなった、理想的な状態です。下の図では、治療開始6ヵ月後には、患者さんのDAS28の平均値が「寛解状態」に近い値に近づき、その後も良い状態を維持していることがわかります。CRPの数値(平均値)も6ヵ月後以降は正常化しています。


(2)エンブレルによる治療の経過
同様にエンブレルの効果をお示しします。レミケードと同様に治療6ヵ月後から、DAS28スコア、CRP共に有意な改善を示しています。DAS28スコア(平均値)は治療開始12ヵ月後にはほぼ寛解状態となり、CRP(平均値)も12ヵ月後には陰性化しています。



3.生物学的製剤はどのような患者さんに使用されるのでしょうか?
下の図は生物学的製剤が使用される患者さんの基準を日本リウマチ学会が示したものです。
痛みや腫れのある関節が6箇所以上ある重症の患者さんが適応になります。但し、元から合併している疾患によってはこの薬剤が使用できないことがあり、治療開始に当たっては専門医による慎重な判断が必要とされています。

とても有用な生物学的製剤ですが、注意するべき副作用もあります。下の図にお示しします。2つの薬剤とも、肺炎、結核などの感染症の危険が少しあります。肺炎に関しては、生物学的製剤の治療中に、咳、発熱などの症状がでたらすぐ受診していただき、適切な治療をすることによって治療可能です。その後の生物学的製剤の再開も可能です。結核に関しては、生物学的製剤の使用1ヶ月前から、抗結核薬を内服すると、ほぼ予防可能です。
当クリニックの使用経験では、生物学的製剤の使用中に、細菌性肺炎を来たした患者さんが1名、腎盂腎炎を来たした患者さんが1名いらっしゃいましたが、適切な治療により入院することなく治癒し、生物学的製剤はその後に再開し、現在も使用を継続できています。結核など、重篤な副作用は現在のところ認められていません。

生物学的製剤を使用する場合、糖尿病、呼吸器疾患、65歳以上の高齢者では、感染症の危険が高まることから、量を調節するなど、慎重に行います。また、経口ステロイド薬は明らかな感染症の危険因子のため、生物学的製剤を開始した後、なるべく減量・中止するようにします。



4.生物学的製剤は心血管イベントを減少させる可能性があります

左の図のARの欄の数値は心血管イベントの危険度を表しています。

MTX単独治療によるリスクを1倍(基準値)とすると、生物学的製剤は1.0倍、生物学的製剤とMTXの併用療法では0.8倍の危険度であることを示しています。

上記はアメリカリウマチ学会誌に発表されたデータです。メソトレキセート(MTX)単独使用の場合の心血管イベント(心筋梗塞と脳卒中)を基準とすると、MTX以外のDMARDs(抗リウマチ薬)を使用した場合や、ステロイド薬単独使用の場合、心血管イベントの危険がそれぞれ1.8倍、1.5倍有意に上昇しました。ところが、生物学的製剤単独使用では危険の上昇は認められず、生物学的製剤とMTXの併用療法では、有意ではないものの、心血管イベントのリスクが0.8倍(つまり、20%のリスクの低下)になったことが認められました。
これは、炎症性サイトカインであるTNFαや炎症反応物質CRPが高いこと自体が心血管イベントを発生させる危険因子であることから、これらの物質の作用をブロックする生物学的製剤が疾患の発病を防いでいることを示しています。生物学的製剤により、動脈硬化性疾患の予防ができる可能性を示した報告として注目されます。

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