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平田クリニック かわら版 No.17 (2008年7月)

第17回 本年に認可された関節リウマチに対する新しい生物学的製剤について
日本でも関節リウマチに対して生物学的製剤が積極的に使用されるようになってきましたが、今年新たに2種類の生物学的製剤が厚生労働省から認可を受け、使用可能となりました。今回はこれらの新しい薬剤についてご紹介させていただきます。

1.アクテムラ(一般名トシリズマブ、ヒト化モノクローナル抗ヒトIL-6受容体抗体)
4週間に1回点滴します。大阪大学の西本教授らが中心となって開発した、日本製の生物学的製剤です。IL-6というサイトカインは、約30種類あるインターロイキン(IL)のひとつです。サイトカインとは、免疫担当細胞をはじめとする種々の細胞から分泌される生理活性蛋白質で、炎症・免疫反応、造血、防御反応などで多様な機能を果たしています。IL-6も、下図のような多様な働きを示します
IL-6はリウマチ関節内の滑膜細胞やマクロファージから過剰に産生され、関節の炎症を起こします。破骨細胞を活性化したり、蛋白分解酵素の産生増加を引き起こし、関節破壊を来たします。
また、IL-6は全身を循環し、発熱や倦怠感を引き起こします。炎症性の貧血や血小板の増加も引き起こします。
さらに、リウマチ因子を始めとした自己抗体の産生も促進します。

(1)アクテムラの働き
アクテムラは遺伝子工学を駆使して、マウス抗ヒトIL-6受容体抗体をヒト化したモノクローナル抗体です。
ヒト化しているため、注射後の免疫的な副作用が少なく、中和抗体(アクテムラの作用を阻害する抗体)が出現しにくくなっています(約3%の出現率)。

アクテムラは細胞表面にある膜型IL-6受容体と、血液中や関節液中にある可溶性IL-6受容体の両方に結合します。この結果、体内に存在するIL-6が受容体に結合できなくなってしまい、IL-6の作用をブロックしてしまいます。こうして、IL-6によって引き起こされる関節破壊、炎症反応、発熱、倦怠感、貧血などを多面的に防止してくれます。



(2) アクテムラの治療成績
1)CHARISMA(カリスマ)試験 (Maini RN et al, Arthritis Rheum 2006  /アメリカリウマチ学会誌)
ヨーロッパを中心に行われた臨床試験で、MTXに不応性のリウマチ患者さん359名(発病早期1年以内)に対し、アクテムラ単独で治療した群と、アクテムラにMTX(10―25mg/週)を併用して治療した群にわけて16週間の治療効果をみました。
*  MTX群と比較してp<0.05
** MTX群と比較してp=0.001

確率p値が0.05未満であれば有意差ありです。アクテムラ単独ではACR20%改善で有意、アクテムラ+MTX併用群ではACR20/50/70%改善いずれも有意差をもって効果が認められました。

ACR20とは、圧痛および腫脹関節数が20%以上改善し、かつ、患者さんや医師による評価も20%以上改善した場合です。
(ACR50,70%は、同様の改善が各々50,70%以上に見られた場合です)
前の図から、MTXよりアクテムラ単独が有意な改善を示し、アクテムラ+MTX併用では更に効果が高いことがわかりました。
更に、下の図のように、リウマチが寛解基準をみたした患者さんの割合も、アクテムラ単独群とMTX併用群では、MTX単独群と比べ高いことが分かりました。


DAS28スコアが2.6未満というのは、ほぼ痛みがなく、リウマチが寛解した理想的な状態です。
MTX単独では8%しか達成できませんでしたが、アクテムラとMTXを併用すると34%もの患者さんが寛解したことがわかります。


2)SAMURAI(サムライ)試験 (Nishimoto N et al, Ann Rheum Dis 2007)

日本での多施設共同研究です。発病して5年未満の306名の活動性が高いリウマチ患者さんを対象に、従来の抗リウマチ薬治療群(MTXを含む、但し他の生物学的製剤は含まない)と、アクテムラ単独治療群にわけて52週間(約1年間)治療効果を検討しました。

1年間の治療で、アクテムラ単独では、56%の患者さんがレントゲンでの関節破壊の進行が止まっており、従来の治療と比較して有意な治療効果でした(p<0.01、上の図の左のグラフ)。更に、DAS28の寛解基準を満たした患者さんの割合が日本人では59%にのぼり(従来の治療ではわずかに3%でした。p<0.001で有意差あり(上の図の右のグラフ))、ヨーロッパでの成績より更に有効である可能性が示されました。



3)他の生物学的製剤との比較
アクテムラと他の生物学的製剤の効果の比較です。それぞれ異なった臨床試験の結果で、患者さんの背景も異なるため、一概に比較はできません。アクテムラは他の3剤と比較しても、ACR20%改善率については同等の効果があるといえます。特徴的なのは、他の生物学的製剤とは異なり、アクテムラはMTXを併用しなくても同等の効果を発揮していることです。



2.ヒュミラ(一般名アダリムマブ、ヒト型抗ヒトTNFαモノクローナル抗体)

2週間に1回、皮下注射を行います。エンブレルと同様に自宅での自己注射が可能です。レミケードと同様の抗ヒトTNFαモノクローナル抗体ですが、遺伝子工学的な手法でヒト型抗体とし、抗原性を少なくしています。従って、MTXの併用は必須ではありません。しかし、レミケード、エンブレル、アクテムラと同様に、MTXと併用するほうが、より効果が高いことがわかっています。

(1)PREMIER(プレミア)試験(Breedveld FC et al, Arthritis Rheum 2006/アメリカリウマチ学会誌)
欧米で実施された試験です。罹病期間が3年未満の活動性が高い早期リウマチ患者さん799名を、MTX群、ヒュミラ単独群、ヒュミラ+MTX群に分けて2年間治療効果を追跡しました。
1) ACR改善率
欧米人での試験のため、MTXの1週間あたりの使用量がMTX単独群で平均16.9mg、ヒュミラ+MTX群で16.3mgと、日本での最大使用量の2倍以上です。このため、MTX単独群の効果が良いと思われます。次の図のように、ヒュミラ+MTX併用群が、ヒュミラ単独群やMTX単独群より有意にACR20/50/70/90の改善率が高いことが分かります。生物学的製剤とMTXの併用群が生物学的製剤の単独群より効果が高いことは、すでにエンブレルでも報告されています

2)臨床的寛解の達成

治療開始1年後および2年後での寛解(DAS28<2.6を満たす)についての結果を示したのが下の図です。

ヒュミラ+MTX併用群が、1年後、2年後とも、ヒュミラ単独群およびMTX単独群に比べて有意に寛解率が高いことが分かります。併用群では1年後に43%、2年後に49%が寛解しており、先ほどのアクテムラとほぼ同様の良好な結果となっています。


3) レントゲンでの関節破壊抑制効果

シャープスコアという、リウマチの関節破壊を点数化した指標を用いて、治療開始時から2年間追跡しています。数字が大きいほど関節破壊が進行していることを示しています。
下の図のように、ヒュミラ+MTX併用群はヒュミラ単独群やMTX単独群より有意に関節破壊を抑制しています。さらに、ヒュミラ単独群もMTX単独群より有意に関節破壊を抑制していることも示しています。すなわち、ヒュミラはMTXと併用することで最大の効果を得られますが、MTXが副作用などの理由で使用できない場合も、単独で使用することで関節破壊をある程度抑制できます。同様の結果はエンブレルのTEMPOスタディ(2004年)でも既に明らかにされています。



3.アクテムラ、ヒュミラの副作用について

他の生物学的製剤と同様、感染症のリスクがやや高まります。したがって、治療中は、風邪症状などに注意し、体調の悪いときは我慢せず、生物学的製剤の治療を一時中断して、すぐ外来を受診していただきます。感染症がある場合はすぐ治療し、回復してから治療を再開します。また、アクテムラでは、レミケードと同様に、まれに、点滴中に血圧低下や呼吸困難などの注射時反応が見られます(アナフィラキシー様症状0.4%)が、点滴前に抗アレルギー薬を内服(点滴)することで予防はほぼ可能です。

主な副作用(頻度%):発売時までに報告されている副作用のうち、重大なものの頻度を下記に示します。

 
アクテムラ*
ヒュミラ**
レミゲート***
エンブレル****
肺炎
7.8
3.4
2.2
1.13
帯状疱疹
6.4
4.2
-
0.97
敗血症
0.4
0.5
-
0.27
非結核性抗酸菌症
0.4
0.5
-
0.11
結核
0.3
0.5
0.3
0.14
ニューモシスチス肺炎
0.1
-
0.4
0.23
間質性肺炎
-
0.8
0.5
0.62
(*薬剤添付文書2008年、**国内臨床試験、***5000例の全例調査、****全例調査の中間報告2007年)

以上のように、今回の新しい生物学的製剤の登場で、レミケード、エンブレルと合わせて、合計4種類の薬剤が関節リウマチに使用可能となりました。どの薬剤もそれぞれに特徴がありますが、いずれも従来の抗リウマチ薬に比較して抜群の効果を示しています。選択肢が広がり、ひとつの薬剤が副作用や効果不十分で使用できなくなっても、他の薬剤に変更することができるため、恩恵は非常に大きいと言えます。

(参考)2007年12月6日に朝日新聞で報道された、エンブレルによる死亡報道に対する日本リウマチ学会の見解

エンブレルによる死亡患者さんが2005年の発売から2007年11月までに79名にのぼるとの報道がされ、生物学的製剤に不安に感じた方も多かったと思います。日本リウマチ学会と製薬会社は、この報道に先立って、2007年3月に、7091名のエンブレル使用患者さんを検討し、治療開始から24週以内に死亡した29名(エンブレルと因果関係なしを含む)を対象とした標準化死亡率比は1.3(1.3倍の死亡リスク)と報告しました。一方、日本人のリウマチ患者さん全体の標準化死亡率比は1.6(Hakoda,2005年)、つまり1.6倍の死亡リスクがあると報告されています。
すなわち、一般のリウマチ患者さんの死亡リスクとエンブレルを使用したリウマチ患者さんの死亡リスクは差がありません。従って、日本リウマチ学会は、「科学的な見地からは、現時点ではエンブレルの使用により、関節リウマチ患者さんの死亡数が明らかに増加しているとは結論づけられない」としています(2007年12月20日に発表)。
生物学的製剤は、適切に使用すれば、死亡リスクを高めることはなく、「怖い」薬ではないと言えます



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