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平田クリニック かわら版 No.18 (2009年1月)

第18回 関節リウマチの治療薬メソトレキセートと生物学的製剤はリウマチ患者さんの生命予後を改善する可能性がある
(1)MTX(メソトレキセート、リウマトレックス)は、生命予後を改善する
MTXは、今や世界中で関節リウマチの標準治療薬(予後を改善する、有効な薬剤)となっています。ここ数年、日本でも良く使用されるようになった生物学的製剤の効果は、MTXを併用することによって更に最大限引き出されることも証明されました。下の図はMTXの概略です。(RA:関節リウマチ)
 

次にお示しするのは、2002年の米国で発表された報告(Choi HK, et al. Lancet 2002; 359: 1173)です。リウマチ患者さん1240名を対象にしました。平均追跡調査期間は6年でした。MTXの使用量は平均13mg/週(最大25mg)でした。

MTXを内服したリウマチ患者さん(588名)は、内服しなかった患者さんに比べ、全ての原因による死亡も、心血管系疾患による死亡も有意に少なくなったと報告されました。

左の図で、ハザード比が「1」であれば、死亡する危険度は「1倍」であることを示します。
MTX内服の患者さんは、非内服の患者さんに比べ、全ての原因による死亡が0.4倍に減少しました(死亡が60%減少した)。
更に、心血管疾患による死亡も、MTX内服の患者さんでは0.3倍に減少しました(死亡が70%減少した)

有意差あり

MTXは、有効な場合にリウマチ患者さんの運動能力を高めます。また、関節リウマチの炎症と動脈硬化における炎症は共通の機序(炎症性サイトカインであるTNFαやIL-1の産生増加)があることが指摘されています。関節リウマチの炎症は動脈硬化を更に促進することが推定されており、MTXは動脈硬化を抑止することによって、リウマチ患者さんの心血管系疾患による死亡を減少させ、それが全死亡の減少ももたらしたと考えられます。


(2)生物学的製剤(TNF阻害薬)とMTXを併用することにより、MTX単独治療より心筋梗塞リスクを低下させる(2007年アメリカリウマチ学会口演 Gurkirpal Singh, et al.)

関節リウマチ患者さんは、一般の人に比べ、心筋梗塞のリスクが高いことが知られています。心筋梗塞は全身性の炎症の亢進により続発すると考えられています。米国カリフォルニア州の19233名のリウマチ患者さんを観察した結果を、下記にお示しします(追跡期間は74006人・年)。

内訳は、MTX使用13383名、TNF阻害薬使用4943名、その他の抗リウマチ薬使用14958名でした。
TNF阻害薬とは、日本でも使用されている、レミケード、エンブレル、ヒュミラです。
左の図では、TNF阻害薬とMTXの併用群で、有意に心筋梗塞発症が0.2倍に減少したことを示しています。
(発症が80%減少)

一方、ステロイド内服群では、有意に発症が多くなっていることを示しています。
(発症が1.37倍に増加)

有意差あり

結果は、TNF阻害薬とMTXの併用は、MTX単独治療と比べ、有意に(p<0.03)心筋梗塞の発症を減らしました。TNF阻害薬単独や、他の抗リウマチ薬では心筋梗塞の発症は減少しませんでした。(1)でお示ししたように、MTX単独でも心血管疾患を減少させますが、MTXにTNF阻害薬を併用することで、更に動脈硬化の進行を強力に抑制し、心筋梗塞を減少させることが示されました。

一方、ステロイド内服は心筋梗塞を有意に(p<0.01)増加させました。ステロイド薬は高脂血症や高血圧、糖尿病の発病リスクを高める薬です。ステロイドを長期に内服すると、動脈硬化が進行し、その結果心筋梗塞も増加すると考えられます。関節リウマチの治療では、ステロイド薬の使用はなるべく避けるようにすることが重要です。



(3)関節リウマチに生物学的製剤を使用しても肺炎による入院リスクは増加しないが、ステロイド薬はリスクが増加する
   (Wolfe F et. al., Arthritis Rheum; 54(2):628, 2006)

生物学的製剤は、免疫抑制薬であることから、感染症に注意が必要です。しかし、生物学的製剤より、ステロイド薬の方が感染症の危険が高まることを示したのがこのアメリカの報告です。 成人のリウマチ患者さん16788名を3.5年間観察しました。
上の図で、ステロイド薬(プレドニン)が1.7倍肺炎による入院を増加させることが分かります。ステロイド薬は使用量が多くなるに従い、入院の危険度も増加しました。 一方、レミケード、ヒュミラ、エンブレルの生物学的製剤は、有意な肺炎による入院の増加は認められませんでした。
このように、ステロイド薬は、心筋梗塞の危険だけでなく、肺炎の危険も増加させてしまいます。
生物学的製剤が登場する前までは、日本でもステロイド薬は、多くのリウマチ患者さんで使用されてきました。しかし、生物学的製剤により関節リウマチの寛解が可能となった現在では、ステロイド薬はなるべく使用しない(あるいは、使用している場合は減量・中止する)方向になっています。当クリニックでも、エンブレルやレミケード使用中の患者さんの90%以上が、ステロイド薬を不使用となっています。



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