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平田クリニック かわら版 No.19 (2009年1月)

第19回 インフルエンザ菌b(Hib)による髄膜炎の予防ワクチン
(1)インフルエンザ菌による髄膜炎とは
髄膜炎は、脳脊髄液中に細菌やウイルスが侵入して増殖する病気で、細菌性のものは一般的に重症で、後遺症を残すことがあります。
小児の細菌性髄膜炎のうち最多のものはインフルエンザ菌b型によるもので50%以上を占めます。インフルエンザ菌は細胞壁に莢膜を有する莢膜株と、莢膜がない無莢膜株があります。莢膜株はa, b, c, d, e, fの6種類に分類されますが、b型はインフルエンザ菌b型(以下、Hib)と呼ばれ、特に組織侵襲性が強く、主に5歳未満の乳幼児に髄膜炎、肺炎、喉頭蓋炎、敗血症などの重篤な感染症を起こします。ちなみに、無莢膜株におる感染症は比較的軽症であるとされています。
Hibによる髄膜炎は予後が悪く、5%が死亡、25%に後遺症が残るとされ、毎年約600人の5歳未満の小児が発症しています。この度Hibワクチン(以下、アクトヒブ)が承認され、接種可能となりました。
左のグラフのように、Hibは小児細菌性髄膜炎の半数以上を占める、重要な原因菌です。グラフの中の数字は患者数を示しています。(総数80名)
Hibワクチン(アクトヒブ)はHibによる髄膜炎をほぼ100%予防できます。

加藤達夫ら:小児感染症10
(3),209-214, 1998

Hib髄膜炎は近年増加しています。下の図に近年の日本での髄膜炎の傾向をお示しします。
インフルエンザ菌(主にHib)によるものが増加しつつあることがわかります。


(2)インフルエンザ菌による髄膜炎はほとんどが5歳未満の乳幼児に発症する

新生児では、母親からの胎盤を経由した移行抗体に守られているため発症は少ないのですが、3−4ヶ月齢からは移行抗体が消失するため罹患率が高くなります。2−3歳からは徐々に免疫機能が発達し抗体を獲得するため、発症率は低下し、5歳を過ぎると発症しにくくなります。したがって、ワクチンは生後2ヶ月から5歳までの間に接種する必要があります。
上の図のようにインフルエンザ菌による髄膜炎は殆どが5歳未満に発症しています。


(3)アクトヒブの接種スケジュール
下の図のように生後2ヶ月から接種を開始し、合計4回接種します。現行の3種混合ワクチン(ジフテリア+破傷風+百日咳ワクチン)と同時に接種すると合理的です。

7ヶ月齢以降の接種開始となった場合は
●接種開始が7ヶ月齢以上となった場合
 初回免疫は2回行い、1年後に更に1回、追加免疫を実施します。(合計3回接種)

●接種開始が1歳以上5歳未満の場合
 1回のみの接種で十分です。(十分な抗体上昇が得られるため)


(4)アクトヒブの効果
国内で行われた臨床試験では、追加免疫接種後には116名全員に長期感染予防に必要な抗体価が得られました。(富樫武弘:臨床と微生物32(5), 511-516, 2005)
下の図で1μg/mlの抗体があれば、長期のHib感染予防が可能ですが、100%このレベルを獲得できました。
フィンランドで実施された大規模なワクチンの臨床試験でも、追加免疫接種終了後の47000名からは、1人もHib感染症は発症しませんでした。このように、すばらしい効果を持ったワクチンです。


(5)アクトヒブの安全性
海外データでは、251000回の接種で42回の副反応が観察されました。発熱20件、刺激性あるいは号泣17件、局所反応15件などで、これらの副反応は全て数日中に軽快し、死亡例は報告されていません。このことより、安全なワクチンであることがわかります。 現在このワクチンは任意接種(自費扱い)ですが、上記のような安全性と有効性を考えると、積極的な接種をお勧めします。



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