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平田クリニック かわら版 No.21 (2009年8月)

第21回 当クリニックにおける関節リウマチの治療について

1.関節リウマチの治療法の進化
日本で生物学的製剤が使用されるようになってから6年が経過し、その著明な有効性から関節リウマチの予後は著しく改善されてきました。
当クリニックでも4種類の生物学的製剤を導入しており、多くの患者さんにご評価を頂いております。
今回は、当クリニックでの関節リウマチの治療の現状につきご報告いたします。
上の図の略号は下記の薬剤を表します。
DMARDs:抗リウマチ薬 / MTX:メソトレキセート / 抗TNF療法:レミケード、エンブレル、ヒュミラ
抗IL−6療法:アクテムラ / 低疾患活動性:DAS28(CRP)…スコアが2.67未満のとき

上の図に、現段階での関節リウマチの治療指針をお示しします。現在の関節リウマチの治療の目標は、全世界的に、
「早期から積極的な抗リウマチ薬物治療を行い、全ての患者さんにできる限り早く、寛解もしくは低疾患活動性を目指す」
ことです。

このため、関節リウマチの診断がついたら、関節破壊を防ぐため、すぐに薬物治療を開始します。その際は、内服薬のうち、関節リウマチの治療ガイドラインで推奨度A(使用するよう強く勧められる)の薬剤から開始します。リマチル、アザルフィジンEN、メソトレキセート(MTX)、アラバが推奨度Aの薬剤です。なかでも、MTXの効果が高く、活動性が高い場合は、最初から使用することが勧められます。 もし、MTX(副作用などにより使用できない場合はプログラフ)を3ヶ月間使用しても効果不十分な場合は、関節破壊が進行する危険が高いため、生物学的製剤の使用が勧められます。 つまり、活動性が高く、難治性の関節リウマチの場合、治療を開始してから6ヶ月程度で、生物学的製剤の治療が開始されます。

なぜ、積極的な治療がこのように早期から開始されるかですが、以前の「かわら版」でも述べたとおり、発病から1−2年の間が、関節破壊のスピードが一番速いためで、この時期に強力な治療を行うことによって長期予後を改善できるからです。 生物学的製剤を用いる場合、MTXと併用することで、最大限の効果を発揮することが明らかにされています。しかし、腎障害、肝障害、あるいは間質性肺炎など、MTXを使用しにくい場合は、抗IL−6療法(アクテムラ)が単独でも効果が高いため使用されます。

一方で、生物学的製剤の短所は、薬剤費が高額なことです。4種類の薬剤とも、医療保険を適用して3割負担(一定以上の所得がある世帯)の場合、内服する薬剤費と併せると、1ヶ月平均で、約4万円から5万円程度のご負担となってしまいます。(高齢者の場合は、更にその3分の1の費用ですみます。また、住民税の非課税の世帯では、自己負担の上限が1ヶ月当たり35400円で、これを超えた費用は戻ってきます)このため、当クリニックでは、身体障害者手帳の適応がある重症の患者さんの場合、身体障害者手帳を申請する手続きを取り、治療費がかからない様に心がけています。なお、症状が寛解すると、生物学的製剤の注射の間隔を延ばすことができるため、医療費を減らすことができます。


2.当クリニックでの生物学的製剤による治療
当クリニックには、現在約120名の関節リウマチ患者さんが通院されていますが、患者さん全体の33%にあたる約40名の方々が生物学的製剤を使用されています。ちなみに、生物学的製剤使用の先進国である米国では、関節リウマチ患者さんの約40%に使用されており、ドイツやフランスでは約30%に使用されています。

次に、当クリニックでの治療の現状をご紹介します(治療開始後、間もない患者さんは除く)。
■エンブレル 22名(全員がご家庭で皮下への自己注射を実施)
 注射回数 月8回:12名 月6回:3名 月4回:4名 月3回:3名
■レミケード 10名(2ヶ月に1回、2時間の点滴)
■アクテムラ 4名(1ヶ月に1回、1時間の点滴)
■ヒュミラ 1名(2週間に1回の皮下注射)
【1】エンブレル
上の図で、**については、治療開始前(vor)と比較して有意に改善していることを示しています。
DASスコアが2.3以下であれば、寛解状態に入ったことを示します。グラフの中の数値は、患者さん全員の平均値です。

患者さんの背景は、
平均年齢56.8歳(男性3名、女性19名)
平均罹病期間 10.8年(1年ー40年の範囲)

エンブレルとの併用薬は、
MTX:13名 MTX+プログラフ:2名 プログラフ:4名 併用薬なし:3名
MTX平均使用量:4.5mg プログラフ平均使用量:2mg

併用薬なしの理由は、合併症によりエンブレルの単独使用が望ましいと判断されたためです。

エンブレル継続期間は、患者さんにより3ヶ月から36ヶ月超です。左のグラフは治療を開始してから3年間のDAS28スコアの経過を示し、右のグラフは炎症反応CRPの経過を示しています。DAS28は2.3以下で寛解したことを表します。CRPは0.3mg/dl以下が正常値です。グラフの中の数値は、患者さん全員の平均値です。治療開始後3ヶ月目から有意なDAS28の改善とCRPの改善を示し、しかも、効果は継続しています。
感染症や動脈硬化の促進因子である、ステロイド薬の内服については、生物学的製剤の開始と共に、なるべく減量・中止することが勧められています(ステロイド薬のリスクについては、以前の「かわら版をご参照ください」)。
ステロイド薬を中止できた方が10名で、元々ステロイドを使用していない方11名と併せて95%の患者さんがステロイド薬を使用しないで済むようになりました。ステロイド薬を減量できた方は残りの1名(5%)でした。エンブレルの臨床効果は非常に良好でした。
DAS28 ≦ 2.3(寛解)を 45%(10/22名)の患者さんが達成し、
DAS28≦2.7(低疾患活動性)を 59%(13/22名)の患者さんが達成しました。


ご参考に、海外での臨床試験(TEMPOスタディ、2004年)では、エンブレル使用開始後52週での寛解率37%(MTX併用)でした。
エンブレルの利点は、自宅で治療(糖尿病におけるインスリン自己注射と同じです)できることです。クリニックでの治療に関する滞在時間がありません。また、治療経過中に、痛みが取れ寛解状態に入ると、注射の回数を徐々に減らすことができます。最初は週2回の注射であったのを、5日に1回、7日に1回、10日に1回、というように、徐々に間隔を空けてゆくことができます。それに従い、医療費も下がってゆくことも大きな利点です。
【2】レミケード
患者さんの背景は、
平均年齢 51.5歳(男性1名 女性9名)
平均罹病期間 3.3年(1年ー10年の範囲)

レミケードとの併用薬は、
MTX:10名全員(平均使用量 5.2mg/週)でした。(レミケードにはMTXの併用が必須です)

レミケード継続期間は、患者さんにより3ヶ月から36ヶ月超です。エンブレルと同様に、左のグラフは治療を開始してから3年間のDAS28スコアの経過を示し、右のグラフは炎症反応CRPの経過を示しています。やはり、治療開始後3ヶ月目から有意なDAS28の改善とCRPの改善を示しています。エンブレルより有意差があるポイントが少なかった原因は、症例数がエンブレルより少なく、統計処理で有意差がつかなかったためです。
ステロイド薬の内服については、中止できた方が4名、元々使用していない方が6名で、併せて100%(全員)の患者さんがステロイド薬を使用しないで済むようになりました。
レミケードの臨床効果は、エンブレル同様、非常に良好でした。
DAS28 ≦ 2.3(寛解)を50%(5/10名)の患者さんが達成し、
DAS28≦2.7(低疾患活動性) 80%(8/10名)の患者さんが達成しました。

ご参考に、日本でのレミケードの臨床試験であるRECONFIRM−2(2008年)の使用開始後54週での寛解率は27.6%でした。
レミケードによる治療は、維持期には2ヶ月(8週間)に1回ですみます。治療効果が十分現れた場合は、点滴の間隔を徐々に延ばすことが可能です(10週ないし12週間隔など)。間隔が延びれば、それに従い医療費を減少させることが可能です。
【3】アクテムラ

患者さんの背景は、
平均年齢:66.5歳(男性1名、女性3名)
平均罹病期間:13.8年(2年ー31年の範囲)

アクテムラとの併用薬は、
MTX:1名(使用量:4mg/週)プログラフ:1名(使用量:0.5mg/日)でした。

アクテムラの継続期間は、患者さんにより3ヶ月から12ヶ月超です。患者さんの数が4名と少ないため、統計学的な処理は実施しませんでした。
上の図で、折れ線グラフのそれぞれが、個々の4名の患者さんの経過を示します。治療開始後3ヶ月目からDAS28の改善とCRPの完全な陰性化を示しています。アクテムラはサイトカインIL−6をブロックし、CRPの産生を抑えるため、CRPは完全に陰性化しています。
ステロイド内服については、4名全員が中止できました。(中止率100%) 臨床効果は、やはり、非常に良好でした。注目すべきことは、アクテムラ開始前に、患者さん4名全員がレミケード(1名)やエンブレル(3名)で効果不十分だったことです。そのような重症な患者さんであるにもかかわらず、
DAS28 ≦ 2.3(寛解)を 50%(2/4名)の患者さんが達成しました。
すなわち、効果が非常に高い薬剤であることが分かります。
もう一つの抗TNFα療法薬であるヒュミラについては、発売後間もないため、まだ使用している患者さんが少数で、今回は省略しますが、2週間に1回の注射でよいため(エンブレル同様、自宅での治療が可能です)、今後使用頻度が高まってゆくと考えられます。

当クリニックでは、今後も活動性が高い関節リウマチ患者さんには、生物学的製剤を中心とする効果が高い薬剤を積極的に使用し、痛みのない(少ない)快適な生活を送っていただけるよう努めてゆきます。



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