日本において、気管支喘息(以下、喘息)は乳幼児の5.1%、小児の6.4%、成人の3.0%が罹患していると報告されています。
喘息は「気道に慢性の炎症があり、咳や喘鳴、呼吸困難が発作性に繰り返し起こる」疾患です。先進国に多く、また、都市部・温暖な地域に多く、近年増加傾向にあります。
2009年、喘息予防・管理ガイドライン(日本アレルギー学会)が改定され、また、新しい、効果が高い薬剤が市販されました。今回はこれらの点をご説明いたします。
【1】喘息治療の目標
(1)健常人と変わらない日常生活が送れること
(2)正常に近い肺機能を維持すること
(3)喘息発作が起こらず、十分な夜間睡眠が可能なこと
(4)喘息死の回避
上記を達成するために積極的な治療を行います。
【2】ガイドライン改定の要点
症状が軽い早期から、吸入ステロイド薬を積極的に使用することで、喘息の難治化を防ごうとする方向に改定されました。 |
●上の表の1段目のように、喘息を4つの重症度に分類します。
●それぞれの重症度の症状が上から2段目に記載されています。
●4つの重症度ごとに、目安となる治療ステップが上から3段目に記載されています。 |
(ガイドライン2009を簡略化) |
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●今回の改訂では、軽症間欠型に対しても、発作が月1回以上ある場合には吸入ステロイドを継続的に使用することとされました。
● 軽症持続型以上の場合、吸入ステロイドだけでなく、新規の薬である配合剤(吸入ステロイドとLABAの両方を含む吸入薬)も選択可能です。
●中等症持続型以上の場合、配合剤が第一選択薬です。 |
(表中の略語)LTRA:ロイコトリエン受容体拮抗薬、 LABA:長時間作用性β2刺激薬 |
(ガイドライン2009を簡略化) |
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上の表では、各々のステップ(1〜4)について、適切な治療薬が記載されています。
ステップ1で、症状が月に1回未満の場合は、症状がある時に発作止めの薬(メプチンエアー、サルタノールインヘラーなど)を吸入頓用し、原則として長期管理薬は必要としませんが、発作が月1回以上ある場合には吸入ステロイドを継続的に使用することとされました。
ステップ2以上、すなわち発作が週1回以上ある場合は、吸入ステロイド、あるいは吸入ステロイドを含む配合剤も使用することとされました。
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アドエアは、1つの容器にフルタイド(ステロイド薬)とセレベント(長時間作用性β2刺激薬)の両方が入っている新しい吸入薬です。上の図にお示ししたように、同じ量の2種類の薬を別々に吸入するより(グラフでは下の折れ線)、アドエアを1日2回吸入するほうが(グラフでは上の折れ線)ピ−クフロー値が高い(喘息の治療効果が高い)ことがわかりました(Chapman KR, et al: Can Respir J 1999; 6(1), 45-51)。これは、2種類の成分が共存することで、肺内の同一部位への分布が高まり、相乗効果が発揮されやすくなるためだと考えられています。
現在では、中等症持続型以上の重症な喘息には、効果が高いため、この配合剤が第一選択で使用されています。
最近、新たにシムビコート(ブデソニド・フォルモテロール合剤)という配合剤が発売されました(下の写真)。これに含まれるフォルモテロールという長時間作用性β2刺激薬は、作用時間が長いだけでなく、気道平滑筋を速やかに拡張させるため、アドエアより更に速効性があり、喘息発作時の頓用としても有用です。 |
喘息発作を起こす原因は、気道感染(いわゆる感冒)、過労、ストレスなどがあります。軽症の発作は自宅でも対処可能です。まず、医師から処方された発作止めの吸入薬(メプチンエアー、サルタノールインヘラーなど)を吸入します(成人は2吸入、小児は1吸入ずつ、小児の場合は電動のネブライザーでも良いです)。最初の1回で効果が不十分なときは、20分間隔で合計3回まで吸入することが推奨されています。1回目、2回目、3回目と吸入するに従い、呼吸機能が回復することが医学的に確かめられています。それでも改善しない場合は、ステロイド薬(プレドニゾロン換算で4錠から6錠)を内服した上で、すぐに医療機関を受診してください。ステロイド薬は短期間の内服はほとんど副作用がなく、安全です。発作の程度が、「苦しくて横になれず座っている方が楽」(中等症の発作)以上であれば、入院治療が検討されます。 |