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平田クリニック かわら版 No.25 (2011年4月)

第25回 高血圧の治療について(新しい治療ガイドライン JSH2009をふまえて)
日本のエビデンスに基づいて発表された日本高血圧学会 高血圧治療ガイドライン(JSH2009)は、標準的な高血圧治療を示すものとして、本邦での外来診療に取り入れられています。


1.高血圧患者さんの降圧目標

診察室での血圧は、ある1時点のみの数値のため、ばらつきがあります。今回のガイドラインでは患者さんがご自宅で測定する、家庭血圧の重要性が示されています。家庭血圧による降圧の目標値が、多くの研究結果に基づき、下の表の左の欄に示されています。若い患者さんの場合、将来の心血管病(脳卒中や心臓病)の予防のため、高齢者よりも厳格な降圧が必要とされています。また、糖尿病、慢性腎臓病、心筋梗塞がある患者さんは、通常より心血管病のリスクが高いため、更に厳格な降圧が必要とされています。
  目標の家庭血圧(mmHg) 目標の診察室血圧(mmHg)
若年者・中年者 125/80未満 130/85未満
高齢者(65歳以上) 135/85未満 140/90未満
糖尿病あり

125/75未満 130/80未満
慢性腎臓病(CKD)あり
心筋梗塞あり
脳血管障害あり 135/85未満 140/90未満
家庭血圧が重要視されている理由をご説明します(下図参照)。
診察室では緊張するため高血圧でも家庭では正常、いわゆる「白衣高血圧」がしばしば認められますが、この白衣高血圧は治療する必要がありません。逆に、診察室では正常でも、家庭で高血圧の場合は、仮面高血圧と呼ばれ、治療する必要があります。これらは家庭血圧を測定して初めてわかる状態です。また、家庭血圧は、診察室の血圧よりも、高血圧による臓器障害や心血管予後に強く関連することが多くの研究でわかっています。更に、家庭血圧を測定することで患者さんの血圧に対する意識が高まり、治療に好影響をもたらします。

下の図は、健常者と比較した、白衣高血圧、高血圧、仮面高血圧の患者さんの心血管病に罹患する危険度を示したものです。白衣高血圧では健常者と変わりなく、危険はありませんが、高血圧群(危険度は2.17倍)と、仮面高血圧群(危険度は2.63倍)では、有意に危険度が上昇しています。(Bobrie G, et al:JAMA291:1342, 2004) すなわち、白衣高血圧は治療の必要はありませんが、高血圧、仮面高血圧は治療が必要です。




2.家庭血圧の測定のポイント(日本高血圧学会 家庭血圧測定条件の指針)
下の表に、学会で推奨している家庭血圧の測定方法をお示しします。 血圧計は、上腕で測定する機械が誤差が少なく、推奨されています。手首や指で測定する機械は誤差が大きく推奨されていません。 測定する回数は、1回でも良いのですが、測定値がばらつく場合には、2〜3回測定し、その全ての数値を記録するのも良い、とされています。 測定する時間は、下記の朝と晩以外にも、めまいや頭痛など、自覚症状がある場合は、随時測定することが勧められます。 測定の結果で早朝に高血圧を呈する場合は、服薬を夜寝る前に変更すると良いことがあります。

<家庭血圧測定の実際>
1.血圧計:上腕で測定する血圧計を用いる
2.測定の条件:朝晩、それぞれ少なくとも1回、毎日同じ条件で測定する

起床後1時間以内に測定
排尿後
座って1〜2分安静後
服薬前
朝食前

就寝前 座って1-2分安静後



3.高血圧の治療薬

このガイドラインでは、以下の5種類の薬剤を第1に推奨しています(これらの他にも、さまざまな良い薬があり、患者さんの状態に合わせて使用されています)。
患者さんの状態に合わせて、まずはこの中から適切な薬剤を選択します。1種類の薬で目標値まで降圧できない場合、2〜3種類の薬剤を併用することがよく行われています。それぞれに多くの製品があり、ご自分がどの種類の薬を飲んでいるかは、主治医にお尋ね下さい。
(1)アンギオテンシンII受容体阻害薬(ARB)
(2)アンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)
(3)カルシウム拮抗薬
(4)利尿薬
(5)交感神経β遮断薬(αβ遮断薬も含む)
(1)のアンギオテンシンII受容体阻害薬(ARB)は、血管を強力に収縮するアンギオテンシンIIという体内物質が、その受容体に結合することを阻害して、血管を拡張し、血圧を下げます。
(2)のアンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)は、アンギオテンシンIIが産生されるのを阻害して血圧を下げます。これら(1)、(2)の2種類の薬剤は、心臓や腎臓を保護する作用があり、また、糖尿病発症を予防する作用もあるため、心臓病、腎臓病、糖尿病がある高血圧患者さんでは第1選択の薬剤として使用されています。
(3)のカルシウム拮抗薬は、血管平滑筋の細胞内へカルシウムイオンが流入するのを阻害し、血管を拡張することによって血圧を下げます。狭心症にも有効なため、この病気を持つ患者さんはもちろん、安全な薬のため、高齢者の患者さんにも多く使用されます。
(4)の利尿薬は、体に溜まった塩分を尿として排泄し、血液の量を減らすことにより血圧を下げます。利尿薬の中でもサイアザイド系利尿薬は、骨粗鬆症にも有効であり、ごく少量を、他の降圧薬に併用することにより血圧を良く下げてくれます。しかも、安価な薬のため、血圧がなかなか下がらない患者さんに、他の降圧薬に併用して用いられています。
(5)の交感神経β遮断薬(αβ遮断薬も含む)は、自律神経である交感神経の緊張が強い、若い患者さんの高血圧や、心不全がある高血圧患者さんに用いられています。



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