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平田クリニック かわら版 No.28 (2012年5月)

第28回 2012年日本リウマチ学会ハイライト

今年のリウマチ学会は、4/26〜28東京で開催されました。関節リウマチに対する生物学的製剤の話題を中心にお伝えいたします。

1.高齢のリウマチ患者さんへの生物学的製剤の使用(東広島病院 岩橋先生)

70才以上で生物学的製剤を開始した患者さんを対象に検討しました。レミケード4名、エンブレル19名、アクテムラ9名、オレンシア7名でした。
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1年以内に副作用のため薬剤の使用を中止した患者さんの割合が上のグラフに示されています。この中でオレンシアは0%でした。結果として、高齢の患者さんにはオレンシアが比較的安全に使用できることが示唆されました。オレンシアは、副作用としての重篤な感染症が少ない傾向にある(Cochraneレビュー2011)ことを追認する結果といえ、高齢の患者さんにはまずオレンシアの使用が検討されます。




2.アクテムラによる関節破壊の抑制効果(1年間の観察研究)(産業医大 花見先生)

2.アクテムラによる関節破壊の抑制効果(1年間の観察研究)(産業医大 花見先生)
リウマチ患者さん61名をアクテムラで治療してレントゲンにより関節破壊が進行するかを1年間経過観察しました。
下のグラフの縦軸は、TSS(総シャープスコア)といって、手足の小関節の骨破壊の程度を示す数値です。数値が大きいほど、年間の骨破壊の進行が速いことを示します。TSSがゼロであれば、進行が止まったことを示し、TSSがマイナス値であれば、骨破壊が修復されていることを示します。
アクテムラを使用すると、リウマチの基本薬であるMTX(メソトレキセート)を併用しても併用しなくても、同等に1年後の関節破壊の進行をほぼゼロにすることが出来ました。また、レミケード、エンブレル、ヒュミラなど抗TNF薬で効果不十分だった患者さんにアクテムラを使用しても、TSSを1年後に ー0.1 とほぼ進行ゼロにすることが出来ました。アクテムラは単独使用でも抗TNF薬効果不十分例でも有効であることがわかりました。

MTX使用群、MTX使用なし群の患者さんへアクテムラを使用した場合の1年後の関節破壊の程度。

アクテムラ使用後で両群とも関節破壊がほぼ止まっていることを示しています。



3.レミケードにおける期間短縮あるいは増量による治療の比較(名古屋大 舟橋先生)

レミケードは、最初の3回は体重1kg当たり3mgで点滴しますが、これで効果不十分な場合は、4回目から点滴期間の短縮、あるいは増量により効果が増強します。
この報告では、レミケードを使用している603名の患者さんのうち、効果不十分で点滴の間隔を7週間未満に短縮した群(136名)と、100mg以上レミケードを増量した群(115名)で、効果不十分あるいは副作用による中止率を観察しました。その結果、期間短縮群のほうが有意に中止率が低い、すなわち治療効果が良好であることがわかりました。レミケードの血中濃度が1μg/ml未満になると効果が減弱して痛みが発現するとされており(慶応大学 竹内教授)、血中からレミケードが消失する前にレミケードを点滴することが重要です。
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4.ヒュミラによる治療で臨床的寛解を得てヒュミラを中止できるかを検討(HONOR研究)(産業医大 平田先生)

ヒュミラを1年以上使用した190名の患者さんのうち、DAS28<2.6(臨床的寛解)を24週間以上維持した46名でヒュミラを休薬しました。(全て患者さんがMTXあるいはプログラフを併用) 

左上のグラフは、ヒュミラ中止52週後のDAS28寛解率とSDAI寛解率を示しています。約30%の患者さんがヒュミラを1年間休薬できたことになります。
右上のグラフは、ヒュミラを中止した時のDAS28の値により、ヒュミラの寛解維持率がどうなったかを示しています。DAS28スコアが2.16未満という、「深い」寛解を得てからヒュミラを中止するほうが有意に1年後の寛解維持率が良好であることがわかりました。なお、ヒュミラを中止後に寛解維持できた患者さんは、全員が機能的寛解(症状が寛解、HAQスコア0.5以下)と構造的寛解(骨破壊が進行しない、TSS変化率が0.5以下)を維持したと報告されました。



5.低用量のエンブレルは関節破壊を抑制できるか?(PRECEPT研究)(大阪市大 多田先生)

70名のリウマチ患者さんを無作為に、エンブレル50mg/週 使用する群(通常量)と、エンブレル25mg/週使用する群(低用量)に分けて1年間治療しました。
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左上のグラフは、1年間のレントゲンによる骨破壊の進行をみたものです。エンブレル50mg群では数値がマイナス、すなわち、骨破壊が修復される傾向でしたが、25mg群では数値が1.03で骨破壊が進行する傾向でした(有意差はなし)。
右上のグラフは、レントゲンで1年間骨破壊が進行しなかった患者さんの割合を示しています。エンブレル50mg群は67.7%が進行せず、一方、エンブレル25mg群は36.7%が進行せず、という結果で、両群間には有意差がありました。すなわち、最初からエンブレル50mgで治療したほうが有意に骨破壊が進行しなかったことがわかりました。
医療費の負担に余裕がある場合は、エンブレルは50mg/週の通常量で治療開始することが勧められます(25mg群でも十分な臨床的な改善効果は認められますが)。




6.JAK阻害薬について(産業医大 山岡先生)

現在臨床治験が実施されている新たな経口の抗リウマチ薬についても発表がありました。その一つに、細胞内シグナル伝達の上流で活性化されるチロシンキナーゼ(JAK)を阻害するJAK阻害薬があります。2011年のアメリカリウマチ学会では、既に3年間にわたる安全性と骨破壊抑制効果が報告されています。日本で行われたMTX抵抗性のリウマチ患者さんへの治験では、ACR20達成率(圧痛、腫脹関節数が20%以上改善する状態)が約90%、ACR70達成率(ACR70は、圧痛、腫脹関節数が70%以上改善する状態で、ほぼ寛解とされています)は30%以上で、生物学的製剤に匹敵する効果が報告されました。今後、治験で安全性と有効性が確認されれば、今までの生物学的製剤と異なり、簡便な経口薬のため、画期的な新薬となる可能性があります。


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