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平田クリニック かわら版 No.29 (2012年8月)

第29回 糖尿病の新しい治療について
最近、糖尿病に対する新しい経口薬や注射薬が続々発売されています。今回は、新しい治療薬を利用した糖尿病の外来治療についてご説明いたします。

1.糖尿病の治療戦略(山田雄一郎 日本内科学会雑誌2012;101(3):680-684 を改変)

糖尿病の治療の目標は、血糖値、体重、血圧などのコントロールによって、網膜症(失明に至る)、腎症(血液透析に至る)、心筋梗塞や脳梗塞(動脈硬化)などの合併症を起こさないようにすることです。以下は、糖尿病の病態ごとに、使用される治療法を示しています。


1)糖が体内に急速に流入するのを抑制する
この目標を達成するためには、まず、食事療法によって適切なカロリー制限を行うことが必要です。

食事療法の進め方(日本糖尿病学会)
エネルギー必要量(kcal)=標準体重(kg)X 身体活動量
*標準体重(kg)=身長(m)X 身長(m)X22 
*身体活動量 軽労作(デスクワーク) 25−30kcal/kg標準体重
普通の労作(立ち仕事) 30−35kcal/kg標準体重
重い労作(力仕事) 35kcal/kg標準体重
上の計算式で得られたカロリーを毎日の食事が超えないように、栄養士さんに食事療法の指導をしていただきます。

更に、消化管に入ってきた糖の吸収を遅らせることによって食後の高血糖を抑制する薬(αグルコシダーゼ阻害薬)を使用します。この薬は体重が増えにくいことも利点です。
食後の高血糖を改善することにより、動脈硬化の進展を抑制できることが報告されています。


2)食事量を感知してインスリンを分泌させる
少ない食事量の時は少ないインスリンを、大量に食事した時は多いインスリンを分泌することによって、食後の血糖上昇を抑制します。この目的のために使用される薬が、最近続々と発売されているDPP−4(Dipeptidyl peptidase−4)阻害薬(商品名 ジャヌビア(グラクティブ)、エクア、ネシーナ、トラゼンタ、テネリア)です。小腸から食事量に応じて分泌されるインクレチンというホルモンは膵β細胞に働いてインスリンを分泌させますが、この薬はインクレチンが分解されるのを防ぐことによって作用します。この薬は副作用としての低血糖が少なく、安全であることが特徴です(価格は高価です)。また、体重も増加させにくいことも利点です。DPP−4阻害薬は内服薬ですが、インクレチンと同じ働きをする注射薬(GLP-1受容体作動薬)も発売されました(商品名 ビクトーザ、バイエッタ)。
3)高い血糖値を感知してインスリンを分泌させる
この部分で使用する薬は従来から使用されているスルホニル尿素(SU)薬(商品名 アマリール、ラスチノン、ダオニールなど)と、速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)(商品名 スターシス、グルファスト、シュアポストなど)です。膵臓β細胞(インスリンを分泌する細胞)表面にあるSU受容体に結合してシンスリン分泌を促進し、強力な血糖降下作用があります。価格が安いことも利点です。副作用として低血糖に注意することが必要です。また、体重が増えやすいことが欠点で、肥満がある患者さんには注意して使用することが必要です。
4)インスリンが肝臓、筋肉に作用して血糖を下げるのを助ける
メトホルミン(商品名 メトグルコ)は肝臓から糖が出てくるのを抑えたり、末梢組織でのインスリン感受性を高めたりして血糖を下げます。体重を増やさないことが利点で、肥満がある糖尿病患者さんでは第1に用いられる薬剤です。低血糖の副作用も少ないとされています。価格が安価なことも利点です。ピオグリタゾン(商品名 アクトス)は脂肪細胞を小型化してインスリン感受性が改善します。更にインスリンの必要量が減少することで膵臓β細胞を保護する作用があります。この薬は体重増加や浮腫(むくみ)の副作用に注意が必要です。
運動療法もインスリン抵抗性を改善し、ブドウ糖や脂肪の利用が促進され血糖値が低下します。
運動療法について(日本糖尿病学会)
運動の種類:有酸素運動として歩行、ジョギング、水泳など
運動の強さ:心拍数が50歳未満では1分間100−120程度に、50歳以上では1分間100以内の「楽である」または「ややきつい」と思える程度の運動
運動量:1回15−30分、1日2回。できれば毎日行うのが良いが、少なくとも週3日以上行う。

5)新しいインスリン注射薬

著明な高血糖(例えば空腹時血糖が250mg/dl以上)や、飲み薬では効果が乏しい場合インスリンの自己注射療法が実施されます。最近は超速効型のインスリンや持効型(ゆっくり効く)のインスリンが広く用いられるようになりました。超速効型インスリン(商品名 ノボラピッド、ヒューマログ、アピドラ)は、食事の直前に注射しますが、作用時間が短いため、食後の低血糖が起こりにくいのが利点です。一方、持効型インスリン(商品名 レベミル、ランタス)は、1日1回の注射ですみ、注射後にゆっくり吸収され、ほぼ1日にわたり持続的な作用を示します。空腹時血糖の上昇を抑える作用があり、低血糖も少ないのが利点です。



2.治療の流れ(米国糖尿病学会、欧州糖尿病学会が合同で発表した2型糖尿病治療のアルゴリズム Diabetes Care 2009; 32:193-203を改変)

下の表には、行うべき治療の順番が記載されています。右の欄には、治療の強さが示されています。糖尿病の治療の指標であるHbA1cを、6.5%以下(従来のJDS値)あるいは6.9%以下(新しいNGSP値)にすることが目標です。
期待されるHbA1cの低下量、すなわち治療の強さは、メトホルミン、インスリン、SU薬が優れていることがわかります。

治療の進め方

  期待されるHbA1c(%)の改善
1.妥当性が最良の治療
ステップ1:初期治療
体重の減量、運動療法 1.0-2.0
メトホルミン(メトグルコ) 1.0-2.0
ステップ2:追加治療
インスリン注射 1.5-3.5
SU薬 1.0-2.0
2.妥当性が上に次ぐ治療
アクトス(チアゾリン薬) 0.5-1.4
ビクトーザ、バイエッタ(GLP-1受容体作動薬) 0.5-1.0
3.他の治療
αグルコシダーゼ阻害薬 0.5-0.8
グリニド薬 0.5-1.5
DPP-4阻害薬 0.5-0.8

まず、食事療法、運動療法を行い、薬物が必要なときはメトグルコから開始し、効果不十分であればインスリン注射かSU薬を追加します。これでも効果不十分であればチアゾリン薬、DPP−4阻害薬などを追加します。SU薬とグリニド薬、および、DPP−4阻害薬とGLP-1受容体作動薬は同系統のため、同時には使用しません。また、インスリンとGLP-1受容体作動薬も同じ注射薬のため同時には使用しません。

新しい薬剤が続々と開発され、糖尿病のコントロールもより強力にできるようになりました。また、インスリンは強力な注射薬ですが、治療の手間が必要です。インスリンを使用する前に、新しい強力な内服薬をいろいろ併用して試すことができるようになりました。




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