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平田クリニック かわら版 No.30 (2012年10月)

第30回 関節リウマチの治療進め方と生物学的製剤の効果について

関節リウマチは、近年治療法が格段に進歩しました。一方、リウマチは発病早期の1−2年に関節破壊が早く進行するため、効果が高い薬剤を早期から積極的に使用して病気の進行を抑えることが重要です。

1.初期治療のポイント

活動性が高く、下記に列挙した関節予後不良因子を1つでも持つ患者さんは、関節破壊の進行が早いため、基本薬であるメトトレキセート(以下、MTX)を中心とする早期からの抗リウマチ薬の導入が必要です。もし、MTXによる治療でも臨床的寛解が得られない場合は、次に生物学的製剤の導入により臨床的寛解を目指すことが目標です。


関節予後不良因子(ACR2012, EULAR2010):下記のいずれかがある場合です
  • 生活機能障害がある(HAQ高値)
  • 関節外症状: リウマトイド結節、血管炎、Felty症候群
  • リウマチ因子ないし、抗CCP抗体陽性
  • 骨びらん(レントゲン)
  • 高疾患活動性(多い罹患関節、炎症反応が高値)
  • エコーやMRIによる活動性滑膜炎、骨髄浮腫、骨びらん
    (注)ACR:アメリカリウマチ学会、EULAR:欧州リウマチ学会



  • 2.実際の治療の進め方(下の図)
    活動性が中等度以上あるか、関節予後不良因子がある場合は、MTXで治療を開始します。MTXは高用量ほど効果が高いので、必要であれば1週間に16mgまで増量します。場合によりタクロリムス(商品名プログラフ)を併用すると有効ですが、3か月後に寛解が得られない場合は、生物学的製剤を追加します。
    一方、活動性が低く、予後不良因子が無い場合はSASP(商品名アザルフィジンEN)あるいはブシラミン(商品名リマチル)で治療を開始しますが、効果不十分であればMTXあるいはプログラフに変更し、3か月後に寛解が得られない場合は生物学的製剤を追加します。生物学的製剤の効果は3−6か月で判定し、寛解が得られない場合は、第2の生物学的製剤へスイッチします。
    治療の流れ  



    3.生物学的製剤の臨床効果

    当クリニックでは、現在約60名の患者さんが生物学的製剤を使用しています。5種類の生物学的製剤全体の効果をみたのが下の図です。従来のDAS寛解を64%、性疾患活動性を合わせると79%もの患者さんで達成していることがわかります。生物学的製剤の卓越した効果が実証されています。
    生物学的製剤
    参考に、レミケードを発症3年未満の患者さんに使用したASPIREスタディ(Arthritis Rheum 2004年)では、治療開始後54週間で、DAS寛解した患者さんが31.0%(レミケード6mg/kg+MTX)、MTX単独治療を行った患者さん群ではDAS寛解はたった15%でした。
     エンブレルを発症2年未満の患者さんに使用したCOMETトライアル(Arthritis Rheum 2010年)では、エンブレル+MTXを2年間使用した患者さん群ではDAS寛解は57%、MTX単独治療を2年間行った群ではDAS寛解は35%でした。
     アクテムラを発症5年以内の患者さんに単独使用(52週間)したSAMURAIスタディ(Ann Rheum Dis 2007年)では、DAS寛解は59%でした。これらの臨床研究と当クリニックの治療結果は、患者さんの背景が異なるため単純な比較はできませんが、当クリニックの生物学的製剤(全体)のDAS寛解が64%であることは、同等の結果であると考えられます。また、MTX単独でのDAS寛解達成率が上記のように15-35%程度であることを考えると、生物学的製剤がいかに有効な薬剤であるかがわかります。



    4.各生物学的製剤の効果(下のグラフ)
    当院で現在使用している5種類の生物学的製剤の臨床効果を示したのが下の図です。グラフの左には、各薬剤を使用している患者さんの人数を示しています。レミケードは10名全員がDAS寛解を達成していますが、レミケードで効果不十分な患者さんは、既に他の薬剤にスイッチしているため、このグラフだけでは各薬剤の効果を単純に比較できません。また、オレンシアは使用開始後間もない薬剤のため、今後寛解や低活動性の患者さんの割合が増加してゆくことが予想されます。
    バイオ製剤



    5.各生物学的製剤のSDAI寛解の比較(下の図)

    以前の「かわら版」でご説明しましたが、2010年からは、従来のDAS寛解よりも、関節破壊を防止できる「深い」寛解であるSDAI寛解やBoolean寛解を目指すこととなりました。そこで、当クリニックでの各生物学的製剤のSDAI寛解(3.3以下を達成すること)の状況を示したのが下の図です。各薬剤とも25−40%程度の達成率で、統計学的な有意差はありませんでした。どの薬剤でも丁寧に使用することによって素晴らしい効果が期待できます。
    SDA寛解


    SDAIとは:下記の計算式で合計した数値です

    腫脹関節数+圧痛関節数+患者さんの評価VAS(cm)+医師の評価VAS(cm)+CRP(mg/dl)


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